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魔法少女リリカルBASARAStS ~その地に降り立つは戦国の鉄の城~ 第四話「忠勝と予言、そして鬼」 「ククク・・まさかこんなデータが手に入るとはねぇ・・・。」 とある地下にある研究所。ここで紫の髪に白衣を着た男性、ジェイル・スカリエッティは立っている。 彼の目の前にはモニターに映し出されたなのは達六課メンバー。そして、本多忠勝。 「こんなものが六課にあったとは・・いやいや、流石の私も驚いたよ。」 本多忠勝の映像だけがアップになり色々な項目が浮き出る。スカリエッティはふむ、と唸る。その顔はまさに純粋に何かを楽しむ子供の様。 そんな彼の横に薄い紫の髪の女性が現れる。ナンバーズの1番目、ウーノだ。 「ドクター。これをどうするおつもりで?」 「ククク・・・久しぶりに別の方向に研究意欲が向いてきたよ!!」 長年付き添っているウーノはその言葉だけでドクターがこれから行おうとすることが理解できた。 「ではドクター、材料はどうするおつもりで?」 「そんなもの、何かで代用すればいいだけのこと!クククク・・・ハハハハハハハハハ!!」 高笑いをして研究所の奥へと消えていくスカリエッティ、その後をついていくウーノ。 誰もいなくなったその一室に本多忠勝のモニターをじっと見つめる隻眼の少女が立っていた。 その少女が思うはモニター越しに見える強者への期待。自然と腕がうずいてしまう。 いつしか対決するであろう強者に思いを膨らませ、隻眼の少女は立ち去る。 「もし戦うことがあれば・・・私の期待を裏切ってくれるなよ・・。」 少女、チンクの呟きが響いた。 所変わってここは聖王教会の廊下。 その場所にはなのは、フェイト、はやてという隊長三人。その後ろには何故か忠勝がいる。 時々刺さる視線が痛い。 「じゃあ、入ろうか。」 はやてがノックするとドアが開き、奥からフェイトより少し薄い金髪の女性が現れた。 「失礼します。高町なのは一等空尉であります。」 「フェイト・T・ハラオウン執務官です。」 二人が背筋を伸ばし、敬礼をする。金髪の女性はそんな二人に対して優しく微笑む。 「いらっしゃい。はじめまして。聖王教会教会騎士団、騎士、カリム・グラシアと申します。どうぞ、こちらへ。」 そう案内されて三人は奥のテーブルへと案内される。テーブルの椅子には一人の黒髪の男性が座っていた。 「失礼します。」と言ってから二人は席に座る。 「クロノ提督、少しお久しぶりです。」 「ああ。フェイト執務官。」 クロノと呼ばれた男性はその威厳のある表情のまま、フェイトと挨拶。 そんな二人を見てカリムはクス、と笑った。 「二人とも、そう固くならないで。私たちは個人的にも友人だから。いつもどおりで平気ですよ?」 カリムの言葉にクロノは「やれやれ」といった表情をする。 「と、騎士カリムが仰せだ。普段と同じで。」 「平気や。」 「じゃあ、クロノ君、久しぶり。」 「お兄ちゃん、元気だった?」 フェイトの言葉に一瞬クロノはドキッとして、それから少し照れた表情に。 「それはよせ。お互いいい年だぞ?」 「兄妹関係に年齢は関係ないよ。クロノ?」 「・・・・」 クロノの抵抗の言葉にフェイトはさらりと対処。クロノは肩を落とす。 そんな二人の姿を見て、つい笑みがこぼれてしまう。 「あれ?忠勝さんは?」 なのははもう一人いないことに気づく。その人は何故かここに連れてこられた忠勝だ。 「忠勝さーん。入ってきていいんだよー?」 忠勝とは誰か?日本名であることを考えるとなのは達の友人なのだろうか?とクロノとカリムは思う。 しかし入ってきたのは想像を真っ向から打ち破り、いや、砕いた黒い鎧の巨人。 しばらく流れる沈黙。「あちゃー」という表情をするなのは達三人。一方の忠勝はもう慣れたみたいだ。とりあえず頭を掻いておく。 「な・・何なんだ?このミスター質量兵器は?」 「えっと・・・六課脅威のメカニズムや!」 「違うでしょ、はやてちゃん。えっとね、こちらは本多忠勝さん。私達に協力してくれている人なの。」 「というか人なのでしょうか・・・?」 まただ。自分を見るその視線が痛い。こんな姿を主に見せられない。戦国最強も形無しである。 フェイトがコホン、と咳払いをすると喋れない自分の代わりに自己紹介をしてくれた。 「この人は本多忠勝さん。なのはやはやての世界の戦国時代からこの世界に飛んできたんだって。とっても強いんだ。」 いや魔法を使える貴殿らのほうが十分強いですよと言いたくなったが喋れないので心の中にしまっておくことにした。 お辞儀をすると二人も頭を下げて返してくれた。 「でも忠勝さん・・でしたっけ。連れてきたんですか?」 そこは自分も気になってたことだ。納得のいく答えを期待しているぞはやて殿。 「うん・・六課にいるから、クロノ君達にも会わせておかんとなーって。」 来客や外部の者には会わない約束をしたような気がするが忠勝は堪える。 苦笑するクロノとカリム。 正直それからの話は忠勝は自分に関係ない話だったためあまり覚えていない。 唯一気になることがあるならば予言の「崩れ落ちる鉄の城」というフレーズだ。その言葉を聞いた時忠勝は寒気を覚えた。 まさか自分が死してしまうのだろうか?不安になってきた。そして「白銀(しろがね)の城」。 自分の意思を継いでくれる者がいる・・ということだろうか? どうしても不安がぬぐえないまま六課に戻った。 自室に戻ろうとするとはやてに呼び止められた。 「あの・・忠勝さん。カリムの予言の崩れ落ちる鉄の城・・・って忠勝さんも感じてるとおり・・貴方だと思うん。」 俯いて言いにくそうに言葉を口にするはやて。忠勝は何もせず、黙って聞く。 「でも・・・あれは割りとよく当たる占い・・ってカリムも言うてたし・・第一・・・ウチや・・ウチ等六課メンバーが・・そんなことさせへんから!」 振り絞って出した言葉。言い切ったはやては少し呼吸を荒くしている。顔は俯いたままだ。 そんな彼女を見て忠勝は何も言えない。だから手を伸ばし、不器用ながらもはやての頭を撫でる。 「!」 もうちょっと鬼が島の鬼に男気・・というものを学んだほうがよかったな。と心底思いながら忠勝は自室へ戻った。 途中で金髪の子供と遭遇し、泣かれてエライことにはなったが。 また所変わり管理局地上本部。 窓辺に佇む中年の男と女性。 「連中が何を企んでいるやら知らんが、土に塗れ、血を流して地上の平和を守ってきたのは我々だ。それを軽んじる海の連中や蒙昧な教会連中にいいようにされてたまるものか! 何より、最高協議会は我々の味方だ。そうだろう?オーリス?」 「はい。」 「査察では、教会や本局を叩けそうな材料を探して「ハァッハッハッハ!いけねぇなぁオッサンよぉ!」・・・誰だ?」 中年の男が振り向くとそこには銀髪に隻眼、上半身裸で巨大な錨みたいなものを持った男がいた。 「・・誰だ?」 「んなことより、オッサンのその性格を直したほうがいいぜ?反吐がでらァ。」 「何!?」 中年の男、レジアスの殺気を込めた表情をしばらく見つめ、男は鼻で笑う。 「権力とか、そういう事の前に部下を大事にしたり協力する・・・というのも必要だぜ?っとぉ、機動六課とやらの宿舎は・・あっちゃあ。えらく離れてやがるな。」 地図を眺め豪快に笑いながら背を向ける男。 「待て!!貴様は誰だ!!返答次第によっては貴様を・・・・」 言い切る前に男は殺気を込めた視線を送る。その殺気は先ほどのレジアスが放っていた殺気を遥かに上回るものだった。 思わず硬直してしまうレジアス。そしてまた豪快に笑い出す男。 「あんたに名乗る名前は鬼が島の鬼・・・ぐらいしかねぇよ。じゃあな!その六課とやらにお友達が待っているんでな!!」 男は巨大な錨の上に乗り、サーフィンみたいに滑りながら去っていった。室内で。 戻る 目次へ 次へ
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リリカル遊戯王GX 第九話 学園分裂!? 腹ぺこデュエル! 「レイちゃんは大丈夫?」 なのはの問いに十代は頷いて応え、なのははほっと胸をなでおろす。 昔入院していた時の記憶が頼りの、かなり危ない手つきでの治療だったがうまくいったようだ。 「そっちも、スバル達は平気なのか?」 「うん、言うなれば極端に疲労してるってだけだからね。このまま安静にしてれば問題ないよ……ただ」 なのはの表情が暗くなる。 「フェイトちゃんとエリオは、今のままじゃ戻せそうにない。定期的にバインドを掛け直して暴れないようにするしかないね」 「……そっか」 そんななのはになんと言葉をかけるべきかわからず、十代は小さく頷いた。 状況はあまりいいとは言えなかった。 突然一部の生徒がゾンビ化し、爆発的な勢いで増殖していった、万丈目や翔といった十代と縁深く、頼りになるメンバーまでもがだ。 更にその調査に出たフェイト・エリオの二人までもゾンビ化してしまった、今は拘束しているが、直す手段はない。 レイの救出には成功したものの保健室は倒壊、医療の知識がある鮎川もゾンビ化、アモンやジムもデスベルトによって疲労している、更にスターズの二人も疲労困憊・魔力切れで行動不能…… ……訂正しよう、状況は限りなく悪い。 最も――フェイトとエリオに関しては手段が無いわけではない。 罠カード「洗脳解除」、全てのモンスターのコントロールを元の持ち主に戻すカードである。 他のゾンビ生徒にならともかく、精霊として存在している二人ならばこの効果で元に戻る可能性が高い、 ただ、元々使いどころの難しいカードでもあることから、現在無事な人達の持っているカードにはなかったのだ。 「……そういえば」 「何だ?」 「万丈目君って、食糧庫の見張りをしてんだよね?」 「そうだけど……あ!?」 何を言いたいのかに気づき、十代は愕然とする。 万丈目がゾンビになった……それはつまり、食糧庫もゾンビの集団のど真ん中になってしまったということだ。 更に悪いことに、なのは達の食糧も食糧庫に入れてしまっている。 「まずいぜ……これじゃ一週間どころか、三日も持たない」 「でも、どうしよう……対策の立てようが……」 ただでさえ最低限の食事によってストレスはかなり溜まってしまっている、 それさえ得られないなどということがわかったら――想像したくもない。 「とにかく、みんなには隠しておかないと……って、どっちにしろ飯の時間になったらバレちまう!」 「トメさんが少し食材を運んでたはずだから、すぐにどうなるってことはないだろうけど……」 「少しって、どれくらいだ?」 十代の問いに記憶を掘り起こし―― 「多く見積もっても、一日分……」 重い口調で呟いた…… マルタンは図書室に作られた玉座で上機嫌で微笑んでいた。 手ゴマであるゾンビ生徒はかなりの数となり、残った生徒たちも心の闇を増幅させている。 「もうすぐ……もう少しだよ、十代……」 「……十代……?」 「レイ! 気がついたか!」 目を覚ましたレイに十代とヨハンは喜ぶが、レイは逆に顔を俯かせてしまう。 「私のせいで……マルっちと鮎川先生が……」 「何言ってんだよ! レイのせいじゃない!」 「そうだ、この訳の分からない世界のせいだ。あまり自分を責めるな」 「うん……っ? あは、あはははは! ちょっ、やめ――あはは!」 「れ、レイ?」 突然笑い出したレイに二人は困惑し――不自然に盛り上がっているシーツをめくり上げる。 いつの間に入り込んでいたのか、レイの腹部でじゃれ合っていたヨハンの精霊、ルビーとはねクリボーは気まずそうに十代達を見上げていた。 「ルビー……」 「はねクリボー、何やってんだよ」 「もう……!」 ああくそ、俺と代わりやがれ淫獣共がっ 「近藤君……鈴木さん……この子も、あの子もゾンビになっちゃったノーネ……」 残っている生徒たちの点呼を取りながら、クロノスとナポレオンは肩を落とす。 頼りないが、彼らとてこのアカデミアの教師なのだ、生徒たちを想う気持ちに嘘はない。 「それに、加納マルタン君は相変わらず行方不明……」 「っ!」 ぽつりと呟いたクロノスの言葉にナポレオンはわずかに反応する。 拳を強く握りしめ、マルタンの無事を強く祈り続けていた…… スバルとティアナは眠り続けている。 剣山や明日香、なのはがたまに見に来る以外は、キャロが付きっきりで看病にあたっている。 「……ごめんなさい」 思わず謝罪の言葉がこぼれてしまう。 二人が危険な状況に陥っていることはわかっていたはずだ、それでも自分は明日香達を優先した、 なのはもここに辿りついた時の二人もその判断は正しいと言ってくれたが、フリードだけでなく自分も向かっていればここまで傷つけることはなかったかもしれないのだ。 現に剣山が助けに行かなければゾンビ達に囲まれ、彼らの仲間入りをしていた可能性が高い。 自分を責めるキャロの頭をティアナが撫でる。 「ティアナさん……? いつの間に……」 「ついさっきよ。まったく、そんな顔しないの、キャロがフリードを送ってくれたおかげで助かったんだから」 「でも……」 「あのね、明日香さん達より私たちを優先してたら、それこそキャロの事を軽蔑してたわよ? キャロの判断は正しかった、あの状況では間違いなくベストな選択だったわ、それはなのはさんにも言われたでしょ?」 ティアナの言葉にも、キャロは俯いたまま顔をあげようとしない。 ――まったく、私の周りにいる人は、どうしてこうも優しすぎる人ばっかりなのかしらね。 「キャロ、いい?」 「え?」 「あんたが今考えなきゃいけないのは、私たちのことでも、アカデミアのことでもないわ」 「え……と、それって……」 「そんなのは他の人に任せなさい、あんたは今、一番心配していることを無理矢理隠してる」 その言葉にキャロはハッと顔を上げる。 「私は二人を……エリオ君とフェイトさんを、救いたい……!」 「そう……なら、今やらないことは何? 私たちの看病?」 「いえ……ごめんなさいティアナさん、スバルさん、私、みんなのところに行ってきます!」 キャロが去っていき、ティアナは一つ息を吐いて――すぐ側から視線を感じて体を竦ませる。 「ふふふ……ティア、やっさしー」 「す、スバル……! あんた、目を覚ましてたならそう言いなさいよ!?」 「いやー、だって丁度ティアがキャロの事を諭してたからさー、何だか入りづらくって。うーん、流石ティア、いいこと言うよね~」 「――っ! 動けるようになったら覚えておきなさいよ……!」 「みんな、食事の時間だよー!」 トメさんの声に、体育館にいた全員が反応する。 例え最小限だろうが、食事というものはそれだけで人の心を安らげてくれるものだ。 ……まあ、いくつもある次元世界の中には、一口食べただけで卒倒するような料理を作る義妹から逃れるため、日夜神経をすり減らしている家庭なんかもあるだろうが。 そんな不幸な特例はともかくとして、用意された料理を見て生徒たちは動きを止める。 「何だ、これ?」 「……羊羹?」 「ごめんね……材料がなくて、スープを薄めるしかないんだよ……少しでも食感をと思って、ゼリーにしてみたんだけどさ」 十代やなのはが止める間もなく、 トメさんは食糧の絶対的な不足を話してしまう。 二人はパニックになることを覚悟するが――何の騒ぎも起こらないことに気づく。 別に騒いでも仕方がないことに気づいた訳ではない、 ただ、絶望感がパニックになる気力さえをも上回ってしまったのだ。 「みんな……」 「これうまいぜ! トメさん!」 「ヨハン?」 暗い雰囲気に包まれた中、場違いなほどに明るい声で言いながらヨハンはスープゼリーを食べていた。 それを見て、一人二人とスープゼリーへと手を伸ばし、量はともかくとして、その味には満足そうな表情になる。 「流石トメさんだぜ、うまい!」 「ありがとうねぇ、そう言ってもらえると嬉しいよ」 「ごめんなさい、私たちまで……」 申し訳なさそうに言うなのはへ、トメは首を振る。 「とんでもない! あんたたちは十代君達を守ってくれたんだろう? その上仲間が倒れてるんだ、遠慮なんてするんじゃないよ」 「はい……ありがとうございます」 そう言いながらスープゼリーが三つ乗った皿を持ってなのはは立ち去る、スバル達のところへ持っていくのだろう。 その後姿を見ながら、エリオとフェイトの分を用意してやれなかったことに悔しさを感じる。 ゾンビ化している人間が食事を必要とするかどうかはわからない、だからといって、それを理由に食糧を節約するのは彼女のプライドが許せなかった。 体育館の片隅で、三人の男が話していた。 その三人が最後まで名残惜しそうになのはの持っていった食糧を見ていたことには、誰も気がつかなかった。 ――戦いたい。 フェイトとエリオの考えていることはこれだけだった。 二人は体育用具室でバインドを何重にもかけられ閉じ込められている。 バインドを掛け直す手間を考えたら別に閉じ込めなくてもいいのだが―― まあその、なんだ、ソニックフォームで縛られているフェイトを想像してみたら理由が分かってもらえるかもしれない。 半ば力づくでバインドを破ってはいくが、動けるようになる前にバインドを掛け直されてしまう、 ――このままでは戦えない、なのは達を仲間にしてあげられない。 埒があかないと判断し、どうやってここから抜け出せるか、二人は思考を巡らせていく―― 夜、三人の男が体育館から抜け出していった。 オブライエンが組んだ監視チームの目を?い潜り、ジムや三沢が作ったバリケードの一部を崩して外に出る。 彼らが目指しているのは食糧庫、道中には当然ゾンビが大量にいるのだが――空腹の限界を超えた彼らには、そんなことまで考えていられなかった。 ただひたすらに食糧庫への道を走り続け―― 「うわぁ!?」 当然のごとく、ゾンビ達が立ちふさがる。 三人は必死に逃げるが、まるで誘導するかのように現れるゾンビの群れに堪らず側にあった部屋へと飛び込んだ。 「こ、ここは……?」 「図書室、か?」 この三人はほとんど来たことなかったが、大量の本棚を見れば大抵の人間は図書室を思い浮かべるだろう。 更に耳を澄ませてみると、奥の方から何か音が聞こえてくる。 「おい、この音」 「ああ、誰かが何か食ってる!」 音の正体に気づくと、我先にとその音源へ走り出す、 その下へと辿り着き、優雅にステーキを食べているマルタンと目が合った。 「お、お前、加納……?」 「てめぇ、姿を見せないと思ったら、こんなところで一人で呑気にお食事かよ!」 一人が怒りに任せて肉へと手を伸ばすが、その手をマルタンの異形と化した手が掴む。 怯える生徒へ、マルタンは不適に笑い別のステーキが乗った皿を前に出す。 「欲しいかい?」 「あ、ああ……食いてぇ」 「ふふ、いいよ、食べても……だけど、どれだけ食べても君たちが満たされる事はないけどね」 「ど、どういう意味だ!?」 意味ありげに笑うマルタンへと怒鳴りつける……ステーキを食べながらでなければもう少し迫力があったかもしれない。 「君たちの心の闇は、もう僕の手にある……満たされたいなら、このカードの向こうへ行くといい」 「な、何だ……?」 「融合……?」 マルタンの側に一枚のカードが現れ、三人を導くように光だす。 わずかに戸惑いながら、三人はその光へと吸いこまれるように歩を進める。 そして、そのまま―― 『やあ、十代』 「この声、マルっち!?」 突然放送で名指しされ戸惑う十代の横で、レイが驚きの声を上げる。 「マルっち、どこにいるの!?」 『マルっち……? その呼び方はやめてもらいたいな、それに、今僕は十代と話しているんだ』 「……俺に何の用だ?」 何か危険な空気を感じ、警戒しながら十代は問いかける。 『別に大したことじゃない、少し取引きをしようと思ってね』 「取引き……?」 『君たちは今、僕が支配している生徒たちによって動きが取れない、特に食糧は残りわずかなんじゃないかな?』 「っ! お前が翔達をあんな風にしたのか!?」 『こちらには有り余る食糧がある、それを提供してもいいよ』 マルタンの言葉に生徒たちが活気づく。 だが、十代達は厳しい顔つきでここにはいないマルタンを睨みつける。 「それで、代わりに何を要求する気なの?」 『変電施設、あそこをこちらに譲ってほしい』 「……? あそこは砂で埋もれて使い物にならないぞ?」 「兄貴、いい条件ザウルス」 意図の読めない取引きに十代やなのは達は警戒を更に強めるが、 他の生徒はとにかく食糧を手に入れるチャンスだと深く考えずに乗り気になってしまっている。 「兄貴、交換しちゃうザウルス」 「……いや、捨てるには惜しい場所だ、まだ復旧させられる可能性もある」 「それに、相手が欲しがってるってことは、そこを使って何かを企んでいるってことでもあるからね」 みんなの意見を聞きながら十代は悩み――口を開く。 「取引きには――応じない!」 「なっ!? ふざけるな十代!」 「食糧が手に入るんだぞ!」 周囲の生徒たちが次々と罵声を浴びせるが、十代は不適な笑みを浮かべて叫ぶ。 「だが、その二つを賭けてデュエルで勝負だ!」 『ふふ、そう言うと思ったよ、十代……表に出るんだ、相手はすでに用意してある』 マルタンに言われ、動けないメンバー以外は全員が外に出る。 ……最も、生徒の大半は早く食糧が欲しいからという理由のようだったが。 正門のところにやってくると、見慣れぬ仮面をつけた三体のモンスターがやってくる。 「何だ? あんなモンスター見たことないぜ」 「お、おい、あれ……人間の顔じゃないか!?」 誰かの言葉に全員がモンスターを注目し直し――絶句する。 怒り・笑い・無表情とそれぞれ違う仮面を付けたモンスターだったが、その仮面とは別の位置に、見覚えのある顔が浮かび上がっていた。 「あ、あれは原田君と斎藤君と前田君なノーネ!」 「あの三人、いつの間に……!?」 『ふふふ、彼ら三人とデュエルして、勝ったら食糧をあげるよ』 マルタンの声に十代が前に出ようとするが、ヨハンに止められる。 「お前はまだ鮎川先生とのダメージが抜けてないだろう、俺が行く!」 「あの三人が抜けだしたのは俺の監視体制が甘かったせいだ、俺もやろう」 「バリケードが不十分だったのは俺の責任でもあるからな……OK! 勝負だぜ!」 ヨハン、オブライエン、ジムの三人がそれぞれモンスターの前に立つのを見て、なのはは思考を巡らせる。 はっきり言って、今のなのはに三人を援護する力は無い、 スバルやティアナほどではないにしろエクシードモード、更には非常識な量の魔力球の同時生成など無茶をしすぎた。 更に、デュエル場所をわざわざ指定してきたことも何かが引っ掛かってならなかった、 そんななのはに、キャロが話しかける。 「なのはさん、体育館へ行ってください」 「キャロ?」 「この隙にフェイトさん達の拘束を解かれたら、スバルさん達が危険です」 「っ! だけど、ヨハン君達が……」 「三人なら、大丈夫です……ケリュケイオン、セットアップ!」 強い眼差しで、キャロはフリードと共に三人に近づく。 「三人は、私が援護します!」 「キュルルー!」 続く 十代「こいつら、強い!? ヨハン、耐えてくれ!」 なのは「何なの? とても強い力が動いている気がする……ってナポレオン教頭!? いったいどこへ!?」 次回 リリカル遊戯王GX 第十話 キャロの決意! 突き抜けろスターズ! キャロ「これ以上、犠牲者は出させない!」 なのは「どうしても止まってくれないのなら、力づくででも止めてみせる!」 十代「今回の最強カードはこいつだ!」 ―ライトニング4 キャロル=ルシエ― 光属性 魔法使い族 星3 攻撃力600 守備力1200 このカードは自分の場に「エリオ」「フェイト」「フリード」と名のついたモンスターがいる場合、その枚数×200ポイント攻撃力がアップする。 このカードの攻撃力を半分にすることで、ターン終了時まで別のモンスター一体の攻撃力を300ポイントアップできる。この効果は1ターンに一度のみ発動可能。 十代「ヨハン達のことを頼むぜ、キャロ!」 なのは「次回もよろしくね♪」 前へ 目次へ 次へ
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魔法少女リリカルBASARAStS ~その地に降り立つは戦国の鉄の城~ 第九話「立ち上がった白銀の城」 「行くのだな?」 かつて大武闘会が行われていた石の四角い土俵。 一人の巨人は迷い込んでいた世界へ、救うべき者を救うためにもう一度赴こうとしている。 巨人はコクリと頷くと、その巨大な体を唸らせる。 手に握る巨大な槍は今までのものよりも太く、大きく。より鋭さを増している。 「機巧槍 雷神真王」。鋼より硬い炭素の結晶で作られた巨大な槍、もといドリル。 肩は今までの葵の御紋が刻まれたものではなく、先端が軽く尖っていてより機械的になっている。 「鋼具足 飛翔壁」。今までどおり鋼で作った鎧だが重いのに速く動ける。それは紋章の中の不思議な筒が強化されたのだとか。 紋章の中には以前より強化されたプラズマ発生装置。準備は万端だ。 巨人は槍を高々と掲げ、地面に刺す。大の字になって空中に浮かぶ。予想通り、地面が渦になる。 (今度はもう迷わない) 渦に飛び込む。技師のおかげで強化され、白銀の城となった本多忠勝は戦地、ミッドチルダへと駆ける。 「さて・・・お主等も行くのだろう?」 家康の後ろに、四つの人影。 その忠勝が今向かっているミッドチルダ。 まさに戦場と化していた。飛び交う魔力弾。倒れる人々。止むことのない爆発。 戦場を、黒い人影が跳ぶ。また一人、二人、倒れる人。得物の鎌は血に染まる。 「ククククク・・・・ハハハハハハハハハハ!!あぁ・・・楽しい・・楽しい・・・!この鎌の刃が抉りこむ肉!肉から飛び散る血!! 響く絶叫!!痛い・・痛い・・・気持ちいい・・・!!痛い楽しい痛い楽しい痛い楽しい痛い楽しい痛い楽しいィィィィィィッ!!」 「ひ・・・ヒェェェェェェ!!」 思わず魔道士が逃げてしまうほどの狂気を放つ男。それは本能寺の変にて信長と刀を交えた男、明智光秀。 「・・・・」 その隣で敵を殴り倒していくのはかつてのスバルの姉、ギンガ。そのリボルバーナックルは数多の人を倒しているのに血に染まってはいない。 殴られた者はまだ動いている。生きているという証拠だ。 二人の前に立ちはだかる一人の少女、スバル・ナカジマ。 「ギン姉・・・!!」 ギンガへと接近していくスバル。 「誰ですか・・・?邪魔しないでくださいよ・・・。」 光秀がスバルに接近しようとすると巨大な手裏剣が地面に刺さる。光秀が飛びのいて避けるとその手裏剣は黒い影となって消える。 そしてその影は一人の忍へとなった。風魔小太郎へと。 「私の相手は貴方ですか・・・いいでしょう。」 ギンガとスバル、光秀と小太郎の戦いが、始まった。 「フフ・・・袋のネズミっすねぇ・・。」 「観念しやがれ・・・」 「・・・・・。」 廃墟となったビルの中でディード、ウェンディ、ノーヴェが倒すべき相手、ティアナを睨む。 この不利な状況でもティアナは表情を変えない。 「三対一、しかも外部との念話はすべて外部に届かずあたし達に届く・・。結界も張ってあるから増援も望めない。」 ディードが冷静に解説するとティアナは突然大口開けて笑い出した。男の声で。 「ハッハッハッハ!俺様の幻術・・見破れてない・・!!ハッハッハッハ!!」 コホン、と咳払いすると印を唱え霧が生じる。その霧をティアナだったものが払うとそこには忍、猿飛佐助が立っていた。 「な・・・!」 「テメェは・・・!!」 「どう?似てたー?嬢ちゃんー。」 「あたしはそんな大口開けて笑わないわよ・・・。」 ウェンディ達の背後から現れたのは本物のティアナ。クロスミラージュの銃口を敵に向ける。 佐助は腰に装着してあった手裏剣を持ち、構える。 「さーて、いっちょやりますか!」 佐助とティアナは三人の戦闘機人へと走った。 ティアナ達が戦っているビルから少し離れた所で、別の戦いが起こっていた。 「消えて・・消えて・・消えてぇぇぇぇ!!」 「ルーちゃん・・っ!」 キャロの説得も虚しく、眼鏡をかけた戦闘機人、クアットロの言葉によって感情を切り捨てられた人形になってしまった少女、ルーテシア。 「ガリュー!」 「・・・・」 ルーテシアの変化を見て戸惑う彼女の召喚虫、ガリュー。それでもガリューは対峙するエリオに攻撃を仕掛けてくる。 どうしていいのかわからず防戦一方になるエリオ。 止め処なく現れる召喚虫達。ルーテシアの魔法攻撃に必死に防御して耐えるキャロ。その間も説得を続ける。 ガリューと激戦を続けながらもボロボロになっていくエリオ。 そのビルの横では巨大な者同士の戦いが始まっていた。 一方はキャロが召喚したヴォルテール。もう一方はルーテシアが召喚した白天王。 そんな激戦の中で、蒼い稲妻を放った小さな渦が生まれたのには、誰も気付いてはいない。 渦からは、もう一つの「龍」が誕生しそうだった。 聖王のゆりかご周辺・・。 ここは特に戦火が激しく、爆発と銃弾の数は増していた。 その中でも浮いていたのは量産された本多忠勝。 量産されているから力は弱体化されていて、撃墜しているがそれでもはやて達はいい気分がするはずはない。 「この野郎・・忠勝の・・・忠勝の格好をするんじゃねぇぇぇぇぇぇぇ!!」 赤き鉄槌の騎士、ヴィータはグラーフアイゼンで量産型忠勝を次々と落としていく。 また、同じく撃墜しているはやてはヴィータのように大きな言葉は発していないが顔は怒りを露にしている。 「不愉快通り越して・・・むかついたわ・・。」 白い魔力の砲撃で一掃していく。しかし怒りの元凶、量産型忠勝はまだかなりの数だ。 「はぁぁぁぁぁぁっ!!」 フェイトはというと一機一機順調に撃墜はしているが顔は悲しみに歪んでいる。 なのはもそうだ。本人ではないとしても同じ姿のものを撃墜していくのはどうにもやりきれない。 「早く・・・終わってよ・・・!」 なのはは悲しみと怒りを混ぜた表情で呟き、また撃墜していく。 「おおりゃあ!!」 「ふぅんっ!!」 錨になぎ払われて吹き飛ぶ一体と投げられ、爆発する一体。 それは元親と秀吉によるもの。二人は敵を撃破しながら会話をしていた。 「やっぱ・・・弱体化してるとはいえ数で来られるとどうもね・・・!!」 「うむ、流石に堪えるものがあるな。」 二人も何も感じない・・というわけではなかった。やはりどこか嫌な感じがする。 その嫌な気分を少しでも紛らわせようと二人は敵を撃破していく。 「うっ・・・く!」 なのはは槍の一撃で地面に落ちる。 体を地面に叩きつけられる。なんとか魔力で衝撃はある程度和らげたものの防ぎきれなかったダメージと痛みが体を走る。 立ち上がって再びRHを構えると囲まれていた。 皆背中から砲身を出していた。そう、訓練のときになのは達に見せた攻撃形態。次第に砲口へ溜まる稲妻。 思わず目を瞑るなのは。しかし、爆発音が響くだけで自分に衝撃は何もこなかった。 「・・・え?」 目を開けると白銀の鎧の巨人が立っていた。 手に持っていた槍を振るうと一瞬にして周りの量産型の忠勝は上下真っ二つになり、爆発した。 間接から出る煙、赤く光る目。背中に背負った紋章。その白銀の城を見たものは量産型忠勝を見た時よりも驚いた顔をしている。 「ただ・・かつ・・・さん?」 巨人は振り返り、ただ頷く。驚愕の表情が一気に喜びの顔へと変わる。 「忠勝さん・・・っ!!」 忠勝は仲間が戦う戦場へと、到着したのだ。ロケットを展開、背中に電撃が走ると球体が生まれる。 敵が近づくと稲妻に巻き込まれ、吹き飛び、爆発する。 忠勝、電磁形態。 電磁形態のまま空中に飛び上がり、両手を交差させると稲妻が量産型忠勝を襲う。 襲われた量産型は爆発。忠勝の周りに数多の爆風が生じた。 その爆風の中から忠勝はロケットを展開して槍を振るう。瞬く間に撃墜されていく量産型。 空中で制止し槍を背負う。 体に背負った数珠の中から黒く丸い宝石を取り出し、その腕を前に突き出す。 その宝石は光ると次第に形を変え、目の光も赤から金色に変わる。 「え・・・?あれは・・・!?」 宝石は黒き体、金色の刃の大剣だった。忠勝はそれを手に、また量産型を撃墜していく。 その大剣は優しき雷神が持つ武器に瓜二つだった。 これが忠勝が家康から渡された、「力」の一つ。 戻る 目次へ 次へ
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リリカル遊戯王GX 第一話「異世界デュエル!? ハーピィ・レディVS機動六課!」 「ふう……」 フェイトは深い溜息を吐く。 ジェイル=スカリエッティ事件が終わりを告げてから数年、 六課にいた時よりもきつい激務の毎日でさすがの彼女もかなり疲労していた。 何より、なのはやエリオ達ともまともに連絡が取れていないのもかなりのストレスになっている。 「フェイトさん、大丈夫ですか?」 「あ、ティアナ……ごめんね、平気だよ」 いつの間に居たのか、ティアナにフェイトは笑顔を無理矢理作る。 自分の補佐である彼女にあまり情けない姿を見せたくない、兄であるクロノのように常に冷静な人物でありたかった。 ティアナはまだ何か言いたそうだったが、少し思案して仕方ないといった様子で口を紡ぐ。 頭のいい彼女の事だ、自分の作り笑顔など見抜かれているだろう、 それでも深く言ってこないのは、この数年の間でどれだけ自分が頑固なのか悟っているからであろう。 「フェイトさん、無理だけはしないでください。スバルから聞いたんですけど、なのはさんも心配してるそうです」 「……うん、わかってる」 なのはの名前を出されると弱い、 無理をしすぎて危うく死にかけた親友と、今の自分は似ているところがあるのだ。 だからといって執務官の仕事を放っておくこともできない、ティアナもその辺りは承知しているのだろう、 これ以上何も言う気はないようだ。 『フェイトさん、ティアナさん、八神捜査官がお呼びです』 「え、はやて?」 「八神部隊ちょ……捜査官が?」 はやてとはなのは達以上にやりとりがなくなっていた、 フェイトと同じか、それ以上に忙しい立場についているのだからそれも当然かもしれない。 そんな彼女がいったい何の用なのか? 突然のシャーリーからの連絡に二人は戸惑いながらも指定場所へと向かう。 「あ、来た来た。お久し振りや、フェイトちゃん、ティアナ」 「にゃはは、フェイトちゃん久しぶり」 「フェイトさん、お久しぶりです!」 「え……は、はやて、これ、どういう……?」 「わー、ティア、直接会うの久しぶりだねー!」 「スバル!? それになのはさんにライトニング隊まで……!?」 部屋に入った二人は面食らう。 中にはヴォルケンリッターを除いた元機動六課のメンバーが勢揃いしていたのだ。 困惑するフェイトにはやては笑顔で説明を始めた。 「ある次元世界でかなり大きな反応をキャッチしたんや、それが何かはさっぱりわからへんけど、 レリックにも匹敵するほどの魔力反応を放っておくこともできへん」 「その調査と、危険な物だとしたら回収するのが今回の任務ですー」 「ま、リミッターもはずされてるみんなには簡単な任務やな」 「そ、それはわかったけど、どうしてなのは達も? みんな部署は別々なのに……」 「最近フェイトちゃんちょお疲れとったやろ? それで不謹慎ではあるけど、 同窓会っぽくして気分転換させたろかなーってな」 聞きたいのはそこじゃない、フェイトの視線の意味に気づき、はやては笑みを深くする。 「フェイトちゃんが聞きたいのは方法やな? リンディさんやレティ提督直伝の――」 「ごめんはやて、私が悪かったから聞かせないで」 聞いたらやばい、最初の二人の人物の名前を聞いた瞬間その場の全員が同じことを思ったという。 はやては少しつまらなそうにしながら、本題へと入る。 「この次元世界、どうにも実態が掴めへんのやけど……魔物らしき生物が大量にいることは確認されとる。 ウチも行けたらいいんやけど、シグナム達が別の任務で苦戦してるみたいでそっちに行かなあかん」 「こちらとコンタクトが取れそうな生物がいたら接触してみてください、これを機会に管理世界になるかもしれないです」 全員が頷いたのを見て、はやては立ち上がり真剣な表情で全員の顔を見渡す。 「機動六課が解散してからもう何年もたった、みんなあの時よりも成長してると思うし、心配はいらないと思う。 けど、絶対に無理はせんように、全員無事で帰ってくることを優先してほしい」 そこで一つ咳ばらいをし、はやては右手を突き出し数年ぶりの命令を出す。 「元やけど……機動六課、出撃!」 『了解!』 その次元世界は一面砂で満たされていた。 砂漠であるのは間違いないが、一般的な砂漠――例えば昔にフェイトとシグナムが一騎打ちをしたような――と比べると暗い雰囲気をだしている。 そんな砂の世界で、明らかに場違いな建造物が一つ立っていた。 ――デュエルアカデミア―― デュエルモンスターズというカードゲーム専門の学校である。 カードゲームの学校? と思う人も少なからずいるだろうが、甘く見てはいけない、 このデュエルアカデミアがあった世界では、このカードゲームによって莫大な金を得た人間や、莫大な金を使う人間などが大勢いるのだ。 そんなアカデミアの正門にあたる部分、そこに二人の人間が歩いていた。 「いったいここはどこなノーネ……?」 「さっぱりわからないのであ~る。一面砂ばかりなのであ~る」 「なんだか太陽も三つに見える気がするノーネ」 デュエルアカデミアの教諭、クロノスとナポレオン。 この二人の会話からも察しできる通り、このアカデミアは元々この世界の物ではない。 元の世界で起きたある事件によって、この世界へと飛ばされてしまったのだ。 「とにかく、救助を呼ぶのであ~る」 「わかってるノーネ。警察は110番、消防は119番と……」 クロノスが携帯を操作して耳に当てるが、すぐに表情をしかめてしまう。 「おかしいノーネ、どこにも繋がらないノーネ」 「それでは救助が呼べないのであ~る! ……ん? あれは何であるか?」 ナポレオンが空を見上げて何かを発見する。 三つある太陽の影になってよくわからないが、飛行機のようなシルエットに見えなくもない。 「おお! きっと上空からの救助部隊なノーネ!」 「助かったのであ~る!」 連絡が取れなかったのにこんなにも早く救助部隊が来るわけがない。 そんな当たり前の事にも気付かないのがこの二人の欠点であり憎めない点でもある。 その飛行機に似たシルエットは二人に近づいていき、だんだんとその姿が見え――二人は悲鳴を上げて逃げ出した。 「い、いったい何なのであ~る!?」 「し、知らないノーネ!」 その姿に二人は見覚えがあった、 ―ハーピィ・レディ― 攻撃力1200 防御力800 通常モンスター 美しい女性の姿をした、腕に翼が生えているデュエルモンスターズに出てくるモンスターの一匹である。 滑空してくるハーピィ・レディをその場に伏せてやり過ごそうとするが、そのかぎ爪にクロノスは捕まってしまう。 「つ、捕まったノーネ! 助けてほしいノーネ!」 「く、クロノス教諭!」 持ち上げられていくクロノスの足に咄嗟にナポレオンが飛びつくが、 ハーピィ・レディは気にもせずに――いや、獲物が増えたと喜んでいるか?――飛び立とうとする。 「痛いノーネ、離れてなノーネ!」 「は、放していいであるか?」 「あ、やっぱりダメなノーネ!」 こんな状況下でもどこか緊迫感のない二人に、数人の高校生ぐらいの人間達、アカディミアの生徒が近づいてきた。 「あれはハーピィ・レディ!?」 「まずい、クロノス先生達が!」 生徒たちが困惑する中、青髪の青年、ヨハンに何者かが語りかけてくる。 『ヨハン、ディスクを使って私を実体化させてくれ!』 「サファイヤ・ペガサス!? よし……!」 ヨハンが声に従い左腕に装着された機械、デュエルディスクへとカードをセットする。 次の瞬間、神話に出てくるペガサスのような生物がヨハンの側に現れる。 ―宝石獣サファイヤ・ペガサス― 攻撃力1800 防御力1200 効果モンスター 「頼むぞ、サファイヤ・ペガサス!」 「任せろ、ヨハン!」 ヨハンに応え、サファイヤ・ペガサスが飛び去ろうとしているハーピィ・レディへと飛び立っていく。 人間二人という重りを持っているハーピィとの距離はあっという間につまり、ペガサスはその翼をハーピィへと向ける。 「サファイア・トルネード!」 ペガサスがハーピィに向け、羽ばたいて竜巻を起こす。 狙いたがわず竜巻はハーピィの背中に直撃し、その衝撃でクロノスを掴んでいたかぎ爪を放してよろめきながら飛び去っていった。 「た、助かったノーネ?」 「いったいどうなってるザウルス!?」 「これはソリッドヴィジョンじゃないよね……?」 語尾が特徴的な青年剣山と、黄色の服を着た小学生と間違えそうな小さい青年翔が実体化しているサファイヤ・ペガサスを見て呟く。 デュエルモンスターズはソリッドヴィジョンシステムという、ホログラフィを使って行われるのが一般的である。 本当にそこにモンスターが実在するかのような映像で、デュエルを一層盛り上がらせるのだ。 しかし、今ヨハンが呼び出したこのサファイヤ・ペガサスは映像ではなく、実体があった。 「ハネクリボー? お前も実体があるのか?」 赤い服を着た青年、遊城 十代の目の前に翼が生えた毛むくじゃらの小さく愛らしいモンスターが現れる。 ―ハネクリボー― 攻撃力300 防御力200 効果モンスター 十代の問いかけに「クリクリ~♪」と鳴いて答え、はしゃぐように十代の周りを飛び回っている。 「ここは、カードの精霊が住む世界なのか……?」 「カードの精霊? 兄貴、何言ってるドン?」 「ヘイ、ダイノボーイ、どうやらそいつを信じなけりゃ話は進まなそうだぜ」 カウボーイハットを被り、何故か背中にワニ(しかも生きている)を背負った男、ジムが空を見上げながら言い、 剣山がその視線を辿ると先ほどのハーピィ・レディが上空を飛びながらこちらを狙っていた。 「危険なのであ~る! 早く逃げるのであ~る!」 「待って、いったい何人この世界に飛ばされたのか確かめないと……」 「体育館に生徒を集めてください、現状の確認を」 パニックに陥るクロノス達と対照的に、ヨハンやきつめの印象の女性、明日香は冷静に次にするべきことを考える。 だが肝心の二人はただ自分の身を守るのに精いっぱいのようだった。 「ダメだな、ここは僕らでなんとかしよう」 「時間をかけるほど危険性が増す、放送か何か使えればいいが……」 知的な男、アモンとこのメンバーで唯一の黒人、オブライアンはあっさりと二人に頼ることを諦める。 確かにこれでは何もできそうにない「こういう時って、大人は対応できないものなのよね」と明日香が冷たく言い放っていた。 「フェイトちゃん、行くよ!」 「うん!」 「ディバイン……バスター!」 フェイトがその場を離れた瞬間、その空間を高密度、高範囲の魔力砲撃が貫いていく。 フェイトを狙ってそこに集まっていた無数の機械仕掛けの蜘蛛達が一瞬で破壊される。 ―カラクリ蜘蛛― 攻撃力400 防御力500 効果モンスター 二人が大量の雑魚を息の合ったコンビプレイで倒していっている間、他の四人は一匹の大型のモンスターと戦っていた。 「キャロ、お願い!」 「はい! ケリュケイオン、スラッシュ&ストライク!」 キャロの補助魔法を受け、エリオは目の前の巨大な亀のようなモンスターに狙いをつけ、一気に貫こうと突撃する――が、 「固っ……!?」 「エリオ君!」 「そんな、キャロのブースト付きでも貫けないの!?」 ―3万年の白亀― 攻撃力1250 防御力2100 通常モンスター ストラーダの刃は甲羅をわずかに傷つけただけで、そのままエリオは弾かれてしまう。 だが、エリオの目は「それ」を捕えていた。 「サンダー、レイジー!!」 弾かれながらも、亀に向かって雷撃を放つ。 いかに甲羅が強固であっても雷までは防げず、その巨体をよじって雷撃の主を弾き飛ばそうとする。 「スバルさん!」 「おぉぉぉぉぉぉ!!」 魔力で作りだされた道、ウィングロードが亀の甲羅の頂点へと伸びる。 スバルは魔力を高めながらその道を疾走していく。 それを見た瞬間、ティアナは自らの周りにいくつもの魔力球を生み出した。 「スバル、クロスシフトD、行くわよ!」 「OK!」 機動六課にいるころは結局見せることのなかった新しいクロスシフト、 数年前に練習しただけだが、二人の目に失敗するかもしれないという怖れはまったくなかった。 「クロスファイア……シュート!」 「いくよ、マッハキャリバー!」 『All right buddy』 ティアナの魔力球がスバルの目の前、そしてターゲットの間近で収束し、大きく膨れ上がる。 魔力球同士がぶつかりあってはじけ飛ぶ瞬間、スバルはリボルバーナックルでその巨大な魔力球を雷に苦しんでいる甲羅へ叩きつける! 「一撃、必倒!」 甲羅が砕け、スバルは甲羅の内部で魔力球を解放する。 「クロスファイア……バスター!!」 「いいね、しばらく会ってなかったのに、チームワークとか凄くよくなってる」 「ありがとうございます!」 この世界にやってきた途端に無数の魔物に襲いかかられ、なのは達は止む無く戦闘に突入する事になっていた。 それを粗方片付けた後、なのはに褒められてスバルは嬉しそうに笑顔で返す。 「それはいいけど、あのクロスファイアバスターって何よ?」 「えへへ~、ティアのクロスファイアを、私のディバインバスターみたいに相手に叩きつけるからクロスファイアバスター、言い名前でしょ!」 「……あんたのネーミングセンスの無さはよくわかったわ」 「あ、あの、いつまでもここに留まっているとまずいのでは……」 「またモンスターが襲ってくるかもしれないですし……」 「うん、二人の言う通りだね。なのは、どうする?」 言いながらフェイトはある方向へ視線を向ける。 そこにはこの世界に不似合いな建造物――デュエルアカデミアがあった。 外にいてはいつモンスターに襲われるかわからない、だが、あからさまに怪しいあの建物は本当に安全なのだろうか? 思考を巡らしていると、近くから男の悲鳴が聞こえてきた。 「今のは!?」 「あそこ! 誰か襲われてる!」 戦闘機人ならではの視力でスバルが悲鳴の主を見つけ、ウィングロードで先行する。 なのは達もすぐにそれを追い、段々と男を襲っている正体が見えてくる。 「でっかい亀と機械クモの次は鳥人間!?」 「空中戦……私とフェイトちゃんで行くよ、みんなはあの人を!」 『了解!』 簡単に打ち合わせをし、先行していたスバルがウィングロードを男とモンスター……ハーピィ・レディの間に走らせ注意を向ける。 ハーピィはそのままスバルを狙おうとするが、フェイトがハーケンフォームのバルディッシュでかぎ爪を受け止めた。 「このぐらいの攻撃なら、私でも止められる……!」 自分の攻撃が効かないと気づいた瞬間その場から離れ、更にフェイトの横に並んだなのはを見て顔を顰める、 だが、次の瞬間その表情は笑みに変わり、次の瞬間ハーピィの背後が万華鏡のように輝き出す。 ――そして次の瞬間、二人はハーピィを見て驚愕することとなる。 「嘘……?」 「増えた……!?」 一瞬の間にハーピィが髪型だけを変えた三人に増え、更に金属質なボンテージを着こんでいた。 それを地上から見ていた襲われていた男は、なのは達に向かって叫ぶ。 「気をつけろ! 万華鏡―華麗なる分身―とサイバー・ボンテージを使ったんだ!」 ―ハーピィ・レディ三姉妹― 攻撃力1950 守備力2100 効果モンスター(サイバー・ボンテージの効果で攻撃力500アップ) 三匹のハーピィは息の合った動きで二人をかく乱していく、先ほどとはまったく違う動きに戸惑いながら、フェイトはなんとか反撃しようとする。 「プラズマランサー、ファイア!」 雷撃を纏った魔力球がハーピィの内一匹を襲うが、直線的なその攻撃は回避されてしまう、 だが、ハーピィが避けた先には桜色の魔力球が設置されていた。 「――!?」 「アクセルシューター!」 なのはの攻撃がまともに当たるが、ハーピィは多少ダメージを受けた様子を見せただけで倒れてはいなかった。 「そんな、なのはさんの魔力球を喰らって無事なの!?」 「は、ハーピィ・レディ三姉妹にサイバー・ボンテージを装備したら攻撃力2450……並大抵の攻撃じゃ、太刀打ちできない……」 「だから、さっきから攻撃力とか何なのー!?」 「……もしかして、あの魔物達って三匹で一匹、みたいな存在なんですか?」 男の言葉に違和感を感じたキャロが問いかける。 男は苦しそうにしながらも、それに頷いて肯定した。 「キャロ、どうするの?」 「三匹で一匹……なら、一匹だけでも切り離せれば! 連結召喚、アルケミックチェーン!」 キャロが鎖を召喚し、フェイトの背後から襲いかかろうとしていたハーピィを拘束する。 鎖をはずそうとハーピィがもがくたび、キャロの鎖はきしんでいく。 「なんて、力……なのはさん、フェイトさん、今です!」 「キャロ……ありがとう! バルディッシュ、サードフォーム!」 「いくよ、レイジングハート!」 捕らえられたハーピィへ二人は狙いをつけ、その隙を狙おうとした二匹のハーピィの目の前を魔力球が通り過ぎる。 「こっちの事も忘れてもらっちゃ困るのよ!」 ティアナに気を取られている間に、なのはとフェイトは準備を完了する。 「ジェットザンバー!」 「ディバイーン、バスター!!」 雷を纏った巨大な剣と魔力砲撃、二人の同時攻撃を受けてさすがのハーピィも倒れ伏す。 その姿を見て、残る二匹のハーピィも慌ててその場から飛び去っていった。 「やった! さすがなのはさんとフェイトさん!」 「……君たちは、いったい何者なんだ? デュエルモンスターズのキャラではないみたいだが」 「デュエ……? 私たちは時空管理局所属の魔道士です、私たちについて詳しい事は後でお話しますが、今はどこか落ち着ける場所に行きたいのですが」 こんな場所で話していてはまた何かに襲われかねない、だからといって安全な場所があるかどうかもわからないが、 わずかな期待を胸に問いかけると、男は「本当に安全か保障はできないが……」と呟いてある場所を指す。 その先には、デュエルアカデミアがあった。 続く 翔「変な世界には来ちゃうし、魔法使いなんて出てくるし、僕たちどうなっちゃうんだろう……」 十代「魔法かぁ、面白そうだよな! 俺も使ってみたいぜー!」 翔「兄貴は単純で羨ましいっす……」 次回 リリカル遊戯王GX 第二話 魔法とデュエルと謎の敵なの! 十代「ヒーローにも魔法使いとかいないのかなぁ!」 翔「素直に魔法使い族を入れるべきっす……」 十代「さあ、今週の最強カードは……って、なんかいつもと雰囲気が違うぞ!?」 なのは「今週の最強カードはこれだよ!」 サンダーレイジ 魔法カード 相手フィールドの全ての水属性か機械族のモンスターの攻撃力・防御力を半分にする。 なのは「それじゃあ、次回もよろしくね♪」 十代「あ、あんた誰だよ!?」 目次へ 次へ
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※キャラ崩壊が多いため、苦手な方は閲覧しないことをおすすめします。 …此処は第97管理外世界に存在する海鳴町沿岸の海水浴場、海水浴客が犇めく其処に一台のワゴン車が辿り着く。 …そしてワゴン車の扉が開き、其処から一人の男が姿を現す、ジェイル・スカリエッティその人である。 リリカルプロファイル外伝 夏休み 「う~んいい天気だ!絶好の海日和だと思わないかね?」 そう言って振り向くと其処にはレザードが眼鏡に手を当て呆れた表情を隠すこと無く面に現していた。 何故彼らが此処に来たのかというと、先日スカリエッティが日ごろの感謝として二泊三日のバカンスを提案 その提案にレザード以外が賛同しウーノの指示の下、手早く準備が始まり現在に至ったのである。 「しかし…随分と変わった格好で……」 「そうかい?」 現在スカリエッティはハイビスカス柄のアロハシャツに短パン、ビーチサンダルを履き麦わら帽子にサングラスといった格好をしており 一方でレザードはいつもの青を基調とした服に黒いマントを羽織っており、海水浴場には似つかわしくない姿は一目瞭然であった。 「ドクター、私達は場所を確保してきます」 「あぁ、頼むよウーノ」 そういって振り返ると其処には紫のトライアングルビキニに腰にパレオを纏い、手にはノートパソコンを携えたウーノと 際どいハイレグカットされた紫のワンピースに、ビーチパラソルを担いだクアットロ、 そして紫に胸元にリボンをあしらったトライアングルビキニ姿のトーレ、更にトーレと同じ形のピンク色の水着姿のセッテが クーラーボックスを携えぞろぞろと砂浜へと向かっていく。 すると今度はライニングボードを持ち上げる形で携えた濃いピンク色の競泳水着のような姿のウェンディと これまた同じく水色の競泳水着のような姿のセインが飛び出してきた。 「行くッスよ、セイン姉!!」 「合点承知!!」 そしてレザードとスカリエッティに軽く挨拶すると矢のように海へと向かう二人、 その二人をあきれた様子でレザードは見つめていると、 腰にフリルが付いた白いワンピース姿のチンクとガジェットIII型を模したビーチボールを携えた 赤いワイヤー型のビキニ姿のノーヴェがチンクの手を引いて姿を現す。 「チンク姉!早くいこ!!」 「少し待て……博士、ドクター、行って参ります」 「あぁ、楽しんでくると良い…」 スカリエッティの応えに一つ礼をすると足早に砂浜へ向かう、どうやらチンク自身も楽しみにしていたようだ。 次に出てきたのは、上は青いタンクトップビキニにジーンズの生地で出来た短パンを履いたオットーと 同じく青いタンクトップビキニに腰にはパレオを巻いたディートが姿を表す。 「どこに行くんだい?」 「………砂浜」 スカリエッティの問い掛けに指を指してオットーは答えると、 気をつけるようにと注意を促しディートは頷いて答えると駆け出す二人。 今度はオレンジのワンピースにパレオを巻いた姿のディエチと 薄紫の水玉模様に胸元にはリボン、腰にはフリルが付いた水着を着るルーテシア、 そして付き添いとしてアギトが姿を表し、アギトの姿が初めて場の空気にあっていると感じるスカリエッティ。 「何処へ行くのかい?」 すると淡々に岩場を指すルーテシア、そしてスカリエッティは足場に気をつけるようにと注意を促すと、護衛がいるから大丈夫だと告げ、 ワゴン車から最後の人物が姿を現す、それは赤フンを纏ったゼストであった。 何故赤フン姿なのかというとゼスト自身が望んだ事なのである。 それは前日の事である、スカリエッティは皆に水着の要望を聞き最後にゼストに聞くと褌と答えた。 するとゼストの答えに悪乗りしたスカリエッティが赤フンを作り上げ渡すと、意気揚々に履き現在に至ったのである。 「…では行ってくる」 ゼストは一言告げるとルーテシアの後をついて行く、 その光景に含み笑いを浮かべるスカリエッティと、頭を押さえ横に振るレザードであった。 …ウーノが獲得した場所は海から程良く近く一望でき、更に人気も少なくまさに穴場といえる場所であった。 そんな場所で黒いTシャツと青い短パンに着替えたレザードがパラソルの下で本を読んでいた。 そして後ろではスカリエッティがウーノと一緒にトロピカルジュースを飲んでおり、 二人から見える位置では荷物を運び終えたトーレとセッテ、更にチンクとノーヴェがビーチバレーで対戦をしていた。 だが戦況はトーレ組が圧倒的であった…… ……反則的なまでに…… 何故ならば、チンクのアタックをライドインパルスで受け止め、セッテのトスに対し、飛行してスパイクを打ち込むのである。 トーレの余りにもの行動にチンクは抗議を唱え始める。 「トーレ姉さん!いくら何でも卑怯だと思います!!」 「甘いな…戦い情けなど必要ない!」 そう断言しチンクを指差すトーレ、だがトーレのそれは周りに人がいないから出来ることであって 他人から見たら瞬間移動や飛行している事自体が卑怯であり、 管理外世界でISを気軽に使うという事は、少なからずトーレも羽目を外している事を指し示していた。 そして少し離れた砂浜ではオットーとディートが砂遊びをしている姿がある。 だが二人が作っている砂の城はディテールに拘っており、細部は楊枝で削って造るほどの拘りようで辺りには人だかりが出来ていた。 そして沖合いではライニングボードを滑走しているウェンディと、水上スキーを楽しんでいるセインの姿があった。 「ヤッホー!次あの波に行くッスよ~!!」 「オッケ~!!」 ウェンディが指さした先にはジャンプするには丁度良い波がうねっており、その波目掛けて大ジャンプ 続けて後方のセインも大ジャンプをして、二人は楽しさの余り笑い合っていた。 ナンバーズの中で一番まともに楽しんでいるのは彼女達なのかもしれない…… 一方、岩場ではルーテシアとこっそり召喚したガリュー、更にディエチとアギトが塩だまりの中を探っていた。 するとルーテシアが何かを見つけたらしくアギトに見せる。 「…………カニ」 ルーテシアは一言口にするとカニをアギトに渡す、するとカニはアギトの二の腕を挟みその痛みに思わず絶叫、ルーテシアの周りを飛び回る。 その頃ディエチは小さなエビや小魚、そしてアメフラシなど見つけ一人楽しんでいた。 ……そしてゼストは腕を組み仁王立ちで岩場の波打ち際のてっぺんでルーテシア達を観察しており、ゼストの後ろでは何度も波飛沫が舞い… ……その佇む姿は様になっていた…… それから暫くして昼食の時間になり、ウーノは連絡を送り皆を集めると 其処にはてんこ盛りの焼きそばが焼きあがっていた、何でもスカリエッティの言い分では浜辺で焼きそばは絶対らしい…… それはさて置き、メンバーはそれぞれ食べる量の焼きそばを盛ると一斉に食べ始める。 その中でオットーの目線が一カ所の方向を指していた、それは海の家である。 その視線に気が付いたディードはウーノの頼み込み小銭をもらうと二人で海の家に向かう。 そして帰ってくるとその手にはかき氷が握られており、 オットーはメロン味、ディードは渋い宇治金時をチョイスしていた。 するとそれを見た他のメンバーがズルいと騒ぎ出し一斉にウーノの下に集まり抗議し その結果、スカリエッティを含めたメンバー全員がかき氷を頼む事となったのであった。 そして午後も日差しが強くパラソルが手放せない中でレザードは一人リラックスチェアーに座り本を読んでいると 本に影が映り目線を上げると其処には髪が濡れて日差しを煌びやかに反射させているチンクの姿があった。 「どうしたのです?チンク」 「博士は楽しまないのですか?」 「……これでも十分楽しんでいるのですがね」 そう言って眼鏡に手を当て不敵な笑みを浮かべるレザード、元々自分はインドアなのでこれで十分に楽しんでいると告げると いきなり右腕を捕まれ椅子から立ち上げさせられると、持っていた本を落とす、 レザードを引っ張り出した正体はスカリエッティで、ズイズイ引きずられ膝のあたりまで浸かると海に突き落とされる。 「やはり、海に来たら海に入らないと意味がないだろう!」 そう言って笑い声を上げるスカリエッティ、それに対しレザードはゆっくりと海から上がりその姿はずぶ濡れ状態で、 スカリエッティは「水も滴る良い男」と言ってレザードを茶化すと レザードは無造作に右手で水をはじきスカリエッティの頭に直撃、その水圧は高くスカリエッティはそのまま沈むと 髪を掻き揚げ眼鏡に手を当て不敵な笑みを浮かべるレザード。 「これであなたも“良い男”ですね」 すると勢い良く水中から姿を現すとお返しとばかりに水をかけ始める。 しかしスカリエッティの攻撃は一切レザードには当たらずレザードは鼻で笑うと それにカチンと来たのスカリエッティはトーレを呼び出し、レザードもまた呼応するようにチンクを呼び出す。 するとトーレはセッテを呼びチンクはノーヴェを、ノーヴェはディエチを呼ぶと セッテはオットーとディードを呼びディエチはルーテシアとアギトを呼びつけ水かけ合戦が開始される。 …いやそれはもう合戦とは呼べない代物となっていた、スカリエッティの攻撃を難なく躱すレザードに対しトーレのライドインパルスでレザードの後ろをとる、 しかし後ろにはチンクが既に存在し水しぶきをあげているとその隙をついてトーレをスープレックスで投げ飛ばすノーヴェ、 だがそのノーヴェもまたセッテに投げ飛ばされるとディエチの正確な水撃に沈むセッテ、 するとディエチの両腕を掴み沈めるオットーとディードに対し今度はルーテシアとアギトが足を掴み沈めるといった状況なのである。 それを沖合いで見つめるウェンディとセイン、何だかんだでみんなも楽しんでいるのかと感じ 岩場の上では未だに波飛沫をバックに仁王立ちで佇むゼストであった。 そして夕食、今日はバーベキューのようでそれぞれが堪能する中 ずぶ濡れになった服を脱ぎ新たなTシャツと短パンに着替えたレザードが椅子に座っていた。 するとレザードの下にスカリエッティが姿を現し、手には二本のグラスと 中に氷が敷き詰められ突き刺さるようにワインが冷やされたバケツが握られていた。 「一杯どうかね?」 「…まぁ、頂きましょう」 そう言うとスカリエッティはバケツを置きグラスと渡すと、バケツからワインを取り出しレザードのグラスに注ぐ レザードもまたワインを受け取りスカリエッティの持つグラスに注ぎ込み、 そして乾杯の音を鳴らすとゆっくりと確かめるようにワインを口にする二人。 「…良いワインですね」 「そうだろう?君といつか飲もうと取って置いたのだよ」 そう言って更にワインを口にするとスカリエッティは上機嫌に話し出す。 今回は皆の英気を養ってもらう為に開催した、そして自分とレザードにもそれは当てはまると饒舌に語る。 「これからのこともあるからね、色々と手伝って欲しい……」 「………まぁ、考えておきましょう」 そう言ってレザードはスカリエッティのグラスにワインを注ぎ足すと、 スカリエッティもまたレザードのグラスを注ぎ足し、二人の時間が続くのであった。 次の日 今日も朝から日差しが強く、朝食を食べ終わったナンバーズ達は準備運動を始め海に飛び込み始める。 一方でスカリエッティは二日酔いでダウン、ウーノが甲斐甲斐しく面倒を見ており、レザードは朝から椅子に座り本を読んでいた。 …レザードは前の世界でよくメルティーナに酒に付き添わされていた為、ワインの2~3本程度なら問題なかったのである。 それから正午を周りウーノと手伝いとしてオットーとディードがカレーを作っている頃 ノーヴェとディエチは海の家付近を通って皆の下へ向かっていた。 すると二人の前に金髪で目つきの悪い男が三人、行く手を塞ぐように現れると二人に声をかける。 「よぉ、姉ちゃん達暇?これから俺達と飯食わねぇ?」 どうやらナンパのようである、だが二人は無視する形でその場を去ろうとすると 一人の男がディエチの手を掴み睨みつけながら怒鳴り散らす。 「てめぇら!無視してんじゃねぇ!!」 男の横柄な態度にディエチは睨みつけると、掴まれた手をひねり返し折ると、続いてノーヴェがハイキックで男の脳を揺さぶる。 自分達の仲間が一瞬にしてやられた事に、怒り心頭といった心境で他の男達が襲いかかるが、 ノーヴェの素早い足払いで二人の男を同時に倒すと踵落としにて男の左足を折り、更にもう一人の顔面を踏み抜いたのである。 「…少し、やりすぎた?」 「大丈夫だって!手加減したしな」 ノーヴェとディエチはまるで何事もなかったかのように先に進みだし、 跡地では男達の阿鼻叫喚な光景の中で彼女達に対する復讐を企むのであった。 そして夜も更け昼間とは異なり辺りに静けさが戻る頃、静寂を切り裂くような轟音がスカリエッティ達が眠るテントの周りで鳴り響く。 その音に目を覚ました一同は次々にテントから出て来ると、 辺りには改造されたバイクが囲うように並び、ライトが眩しく辺りを照らし、人数は50人ほどいる状況であった。 「オラァ!仲間が世話になったようじゃねぇか!!」 どうやら昼間相手をした男達は隣町の暴走族のようで、報復の為に仲間を引き連れて来たようである。 確かに昼間相手をした男達が包帯に巻かれている姿で後部座席に座っている姿があり、辺りは騒然としていた。 「覚悟は出来てんだろうな!!」 バイクの轟音と共に長ともいえる男が息巻いている中、欠伸をしながら頭を掻きけだるそうな姿で出迎える一同。 そのなめきった態度に怒りを露わにすると一斉に鉄パイプやバタフライナイフなどの凶器を持ち出し始める。 するとスカリエッティは顎に手を当て考える、此処で彼らを抹殺するのは容易い… しかし此処は管理外世界、余り派手に動くのは快くない。 取り敢えず…この哀れな子羊達に自分の実力のなさを思い知らせる程度で充分であろう… そう判断するとスカリエッティはナンバーズに命じる。 「死なない程度に遊んであげたまえ」 「了解しました、ドクター」 そう言って一人そそくさとテントの中へ戻ると、外では暴走族達の悲痛な叫びが辺りに木霊し、 それはまさに阿鼻叫喚、地獄絵図ともいえる惨状が展開されていたのであった。 一夜開け、海水浴場付近の道路には破壊されたバイクと共に 誰が誰なのか分からない程までに腫れ上がった顔をした男達が 簀巻きにされ正座で並べられている姿が目撃される事となる。 そして英気を養ったスカリエッティ一同はワゴン車に乗り込み、意気揚々とアジトへの帰路を取るのであった… 目次へ
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オツベルときたらたいしたもんだ オツベルが道を歩いていると、その、マンモス達がいた。 マンモスだぜ。どういうわけでいたかって?見ろよ。マグロをがつがつ食べている。 こいつらは7時半から今までずっとマグロを食べていたんだ。 だけどもうマグロはほとんどのこってないみたいだ。 さあ、オツベルはいのちがけだ。パイプを右手にもちなおし、度胸をすえてこういった。 「どうだい、マグロはうまかったかい」 「まあな。だけどもう食えねえのは残念だ。」マンモスがからだをななめにして、目を細く して返事した。 「おれはマグロをもってるぜ。もっとうまい食い物もな。よかったらおれとこないかい」 オツベルは言ってしまってから、にわかにがたがたふるえだす。 ところがマンモスはケロリとして 「いってもいいぜ」と答えたもんだ。 「そうか、それではそうしよう。そういうことにしようじゃないか。」オツベルが顔を くしゃくしゃにして、まっ赤になってよろこびながらそういった。 どうだ、こうしてこのマンモス達は、もうオツベルの財産だ。今に見たまえ、オツベルは、このマンモス達を戦わせるか、働かせるか。 どっちにしてもこいつはいいひろいものだぜ。 【1日目・18時30分/日本・東京・築地市場】 【オツベル@オツベルと象】 【状態】健康 【装備】なし 【道具】グルメテーブルかけ@ドラえもん 【思考】 基本:不明 1:マンモスマン達を利用する 【マンモスマン@キン肉マン】 【状態】健康 【装備】なし 【道具】蛍石×大量 【思考】 基本:ウメーウメー 1:とりあえずオツベルについていく 【マンモス怪人@仮面ライダーBLACK】 【状態】健康 【装備】なし 【道具】タウリンエキス×大量 【思考】 基本:ウメーウメー 1:とりあえずオツベルについていく 【ビッグコンボイ@ビーストウォーズネオ】 【状態】健康、ビーストモード 【装備】ビッグキャノン、マンモストンファー 【道具】なし 【思考】 基本:何やらノリで仲間に加えられてしまった。 1:とりあえずオツベルについていく ※オツベルを除く全員が放送を一切聞いていません。 ※ジラ@ゴジラ FINALWARS は完食されました。
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第0話 突然の出会い 「天王路、お前をここで俺たちが倒す。」 「フフフ、君たちにこの私に倒せるかな?」 「「変身」」 「・・・変身・・・」 今から一万年前アンデットという存在が現れ、人々を襲い始めた。 そのアンデット達が他の種よりより優れた存在に進化したいという思いで アンデット同士の戦い、バトルファイトが行われた。統制者という者が、 戦闘不能のアンデットはモノリスの力によりカードに封印するという。 その戦いで勝ち残ったのはヒトの始祖たる不死生物・ヒューマンアンデッド が優勝した。だが、ジョーカーによって封印され、ジョーカーは人という 運命と戦うことにそして、現代になりアンデット達が何者かにより大半の アンデットが開放されてしまった。そして、天王路がその首謀者である。 「なぜ、アンデットを開放したんだ。」 「それはだね、私は、万能の力がほしいのだよ」 「そんなことでアンデットを開放したって言うのかよ」 「そうだ。そして、バトルファイトで勝ち残り、新たな世界を作りあげよう」 「なるほど・・・今の世界にいる人間を滅ぼしてまでそんな世界を作りたいのか?」 「当たり前だ、今の人は破滅の道に向かっている。だから、新しい世界をつくるんだよ。」 「許さない。俺はお前を許さない。」「エヴォリューションキング」 「ああ、こいつは今の世界にはいらない存在だ」 「エヴォリューション」 「始、橘さん、睦月、一斉に攻撃を仕掛けるぞ。」 「「ああ」」「わかりました。」 「バレット、ラビット、ファイアー」 「ラッシュ、ブリザード、ポイズン」 「ワイルド」 「?10、J、Q、K、A」 「バーニングショット」 「ブリザードベノム」 「ロイヤルストレートフラッシュ」 「はあああああああ」 そして、ブレイド、ギャレン、カリス、レンゲルは謎の光によって消えた。 目次へ 次へ
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リリカルガウザー プロローグ 「僕達は、虫けらじゃない!」 これは黒岩省吾がこの世界で他人から聞いた最後の言葉だった。 そしてそれはまだ背の伸びきっていない少年が言った、少年の父親を奪った自分への怒りを込めた言葉だった。 黒岩省吾、またの名をダークザイド最強の剣士・暗黒騎士ガウザーにとって、人間と言う生き物はちっぽけで愚かな、動物以下の種族でしかなかった。 常に私欲に塗れ、自分以外の他人を蹴落とし、愉悦と快楽ばかりを求め続ける。 現に自分の好敵手であった男は、そんな愚かな人間たちの本性を具現化し、自己中心的な最低の人間だった。 「こんな屑共が霊長類として世界に君臨し、我々ダークザイドがこそこそと人間共のラームを吸いながら社会の隅で生きていくしかないなど許せない。」 そう思ったからこそ黒岩は、人間社会征服の為に東京都知事となり、東京を国として独立させ、その皇帝に就任して弱い人間の淘汰と強い人間の選別を行おうとした。 まず東京を手始めに厳しい訓練を強制的に与え、身体能力が低く、訓練についていけない力の無い人々、をダークザイドの餌にして排除する。 そして残った強い人間達を奴隷とし、一生ダークザイドのために働き続ける労力として利用し、子供達にはダークザイド社会に適応するための教育を施す。 やがてはこれを世界中に広め、人間達は弱き者は滅び、強き者はダークザイドのために働き続けるダークザイドのための世界へと地球社会を変えようとしていた。 だが、その野望は好敵手であった光の戦士とその相方の緑色の戦士でもなく、自分が心の底から愛した女性でもなく、自分が見下していた人間の子供達に打ち砕かれた。 子供達が投げた手榴弾の爆風が、子供達が撃った銃の弾が、自分の身から生気を奪っていった。 ここでガウザーに変身すれば助かったのかもしれないが、出来なかった。 「僕達は虫けらじゃない」 自分が見下している人間の中でも、もっとも弱い立場にいるはずの子供達が、いづれは世界を統べるであろう皇帝となる自分を恐れずに立ち向かってきた事に驚き、そんな子供達が持つ力に興味を持ったからだ。 「撃ってみろ…その銃でもう一度俺を撃ってみろ!」 子供達のリーダー格であった少年に向かって黒岩は言った。 もし自分が撃たれれば、新しい何かが分かるかもしれない。 図書館で覚えた付け焼刃の知識ではなく、何かもっと実のある何かが分かるかもしれない。 自分の死の果てに見える物が知りたかった。 皇帝になることよりずっと重要だと思った。 少年は銃を撃った。放たれた銃弾は黒岩の胸を貫いた。 だが後悔は無かった。 むしろ自分が…皇帝が死と引き換えに握ったモノの事を思えば、死など安いものだと思った。 黒岩は残った力を振り絞り、付近にあった沼の中まで歩くと、今なお憎悪に満ちた目で自分を見る少年に向けて、自分に新たなモノを見せてくれた少年への感謝を込め、自分が今まで覚えてきた中で一番のお気に入りである薀蓄を語ろうとした。 「知って…知っているか!?世界で始めての皇帝は…皇帝は…」 だが、虚しくも言葉は続かなかった。 力を使い果たした黒岩は、水面の上に倒れ、そのまま沼の中へゆっくりと沈んでいった。 : 冷たい沼の底へと沈んでいく中、黒岩は三人の人物の事を思い出していた。 一人はダークザイドの同士であり、自分の秘書であるユリカ。 黒岩を心から愛し、狂信的とも言えるほど黒岩に尽くしてくれた女。 だが黒岩の表面的な強さだけを愛し、内面を分かってくれなかった哀れな女だ。 彼女は黒岩が向かうはずだった皇帝の王座の前で永遠に黒岩を待ち続けるだろう。 例え黒岩がもうこの世にいないことを知っても、何十年も何百年も、死んで骨となっても、永遠に黒岩を待ち続けるだろう。 いつか黒岩が王座に座り、皇帝となる姿を幻視しながら… 黒岩は初めて、この哀れな女に「すまない」と、心の中で謝った。 もう一人は涼村暁、またの名を自らの宿命のライバル・超光戦士シャンゼリオン。 この男と自分は水と油だった。 この男は学も無く、女好きで、毎日毎日楽しいことだけを求め続ける煩いだけの奴だった。 こんな男が自分の最大の障害になっていると思うと、頭から湯が出る思いだった。 だが、感じたのは不快感だけじゃなかった。 黒岩は暁を厄介に思うと同時に、どこかで彼と戦うことに生きがいのようなものを感じていたのだ。 そして、なぜ自分が彼に勝つ事が出来なかったのかも今なら分かる。 暁は最低な人間ではあったが、黒岩には無いものを持っていたからだ。 それは仲間だ。 彼には仲間がいたから、どんな辛い状況に陥っても立ち上がったし、たった一人でダークザイドと言う凶悪な敵たちと戦い続けることが出来た。 黒岩は以前彼が放った台詞をふと思い出した。 「てめぇらに俺のライバルである資格は無ぇ!!」 暁の秘書・桐原るい(この時はまだ秘書ではなかったが)が暁のために作ってきてくれた弁当を闇魔人アイスラーに踏み潰されたとき、暁が黒岩・ガウザーと闇将軍ザンダー、闇貴族デスター、闇魔人アイスラーの四人に向かって叫んだ台詞だ。 彼は怒りを滾らせて戦い、四人を圧倒した。 このことからも、仲間が与える力と、そんな仲間を傷つける悪を憎む心が大きな力を与えることが分かる。 信頼できる仲間を持たず、一人で覇道を突き進もうとした黒岩が暁に勝てるはずが無かったのだ。 「(本当に…俺にお前のライバルである資格は無かったな)」 黒岩はこの時、暁という人間の大きさ、自分と言う物の小ささを理解した。 同時に、今ここで死ぬことに後悔はないが、できるなら彼に倒されたかったと心で思った。 最後は、自分が真に愛した女性、南エリ。 彼女と黒岩は恋人同士だった。 共に愛し合い、唇を交し合った仲だった。 黒岩がユリカではなく、エリを選んだのには理由があった。 ユリカが自分の圧倒的な強さに惚れ込んだのに対し、エリは自分の内面の弱さをしっかりと見つめ、愛してくれた女だったからだ。 付け焼刃の知識を自慢し、他人を見下すことしか出来ない自分の脆さを理解してくれるエリを、黒岩は真剣に愛した。 だが、二人は人間とダークザイド、正義と悪という種族と立場の違いからお互いの仲を裂いた。 だが、彼女への未練は捨てることが出来なかった。 おそらく彼女もそうだろう。 だから自分の死は、自分のためにもエリのためにも、過去の束縛を断つために必要なことだと思えた。 「エリ…どうか…幸せに…」 黒岩は薄れ行く意識の中で、彼女の幸福を願い、瞼を閉じた。 ∴ 「う…ん?」 太陽の暖かさと小鳥のさえずりを耳にし、黒岩は目を開けた。 「まさか、天国…なのか?…う!」 初めは極楽浄土かと思ったが、違うようだ。 服は濡れ、胸に銃弾の傷が残っている上に、上半身を起こそうとすると激痛が走る。 どうやら生きているらしい。 「まったく…我ながら丈夫なもんだ…」 起きることができないため、黒岩は寝たまま首を動かして周りを見回してみた。 どうやら自分が倒れているのはコンクリートの上のようだ。 周りには木が植えてあり、建物の壁と古風な作りの出入り口、窓が見える。 建物がかなりの大きさのようであるため、おそらくここはどこかの施設の庭だろう。 だがなぜ自分はここにいる?それに自分は死んで沼に沈んだはずだ。それがなんでこんな庭園に? 黒岩が自分がここにいる理由を考えていると、「大丈夫ですか!?」という女性の声が聞こえた。 ほどなくして、桃色がかった赤い短い髪の、ローブを着た女性が黒岩の傍にやってきた。 「凄い血…大丈夫ですか!?しっかりしてください!立てますか!?」 「あ…あんたは…?」 黒岩はまだ知らなかった。 自分がこれから辿る数奇な運命を… 予告へ 目次へ 一話Aへ
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妄想戦士リリカル・ヤマモト 第三話「萌えっ娘のためならば……捨ててくれようこの命!!」 先日の八神家の面々との接触を経て山本一行は事件への介入を控えるようになった。 別に遠慮してるとかではなく、ただ単に萌える対象を愛でる変態的な理由からだがアースラスタッフには喜ばしい事だった。 そして彼らは今海鳴で有名な喫茶店、翠屋に来ていた。 もちろんコーヒーやスイーツを楽しむ為ではない。 「うっひょおおおお!!! 見ろあのめがねっ娘を!! なんという萌えっぷり!! ドジっ娘要素を持った天然系で声が白石涼○なんて素晴らしすぎじゃあああああ!!!」 喫茶店にあるまじき奇声を上げて狂喜乱舞するのはめがねっ娘教団教祖である南雲鏡二。 そして、そんな彼にその他の変態達も雄叫びを上げる。 「うむ! 正にめがねを掛ける為に生まれたような逸材だ!! 100モエー(萌えの単位)は軽く超えるな!!」 「あんまり声を出すんじゃねえ! フィギュアの原型が上手く作れねえだろうが!!」 山本と渡辺が南雲に応えるように吼える、その3人と席を同じくする松下は涙を流しながら嘆いていた。 「なんで俺まで、付き合わされてんだよ…」 嘆く松下をよそに変態萌え集団3人はウェイトレスのめがねっ娘でなのはの姉である美由希に生あったか~い視線と奇声を送り続ける。 「萌えるめがねっ娘のウェイトレスさん! めがねコーヒー御代わり!!」 「フィギュアの原型作るから、1ミリも動くんじゃねえ!!」 「とにかく萌える恥じらいとセリフ追加あああああ!!!!」 3人の凄まじい迫力に美由希は涙目になって怯えまくる。 無理もない、彼女は生まれてこの方、こんな変態的で萌え至上主義の珍生物を見たことは無いのだから。 「なんかこの人達こわいよ~!」 数分後、山本達が翠屋から追い出された事は説明するまでもない。 ちなみに松下は店長の高町夫妻にひたすら頭を下げて、常識人故の苦悩を味わった。 「さてこれからどうする?」 「もちろん素晴らしいめがねっ娘を探すのですよ、山本殿」 「フィギュアの原型にふさわしい女を見つける」 「黙って帰るって話は無いんかい!!!!」 もちろんだが松下の意見は全力で無視されて、山本一行は海鳴萌えっ娘探索へと移る。 ただの散歩と言う事なかれ、山本の萌えセンサー(原理不明、まあ鬼太郎の妖怪アンテナみたいなもんである)を頼りにしての探索であるが故に彼らは正確に萌えへと向かうのだ。 「むう!! 萌えセンサーが急反応しているぞ、これは良い萌えがあるな。では行くぞ者共!!!」 そしてセンサーが急激に反応、山本に引き連れられた一行は二人の少女に出会う。 美しい金髪に気の強そうなハーフの少女、そして軽くウェーブのかかった黒髪の少女である。 二人の少女は正に美少女といって差し支えない逸材であり、これに反応しない山本一行ではない。 「おおっ! 正にこの金髪っ娘はツンデレだな!! 二人合わせて240モエー!!!」 「めがねの似合いそうなお淑やか系のお嬢さんだ~♪ さあめがねを掛けなさい!!」 「今からフィギュアの原型つくるぞ! 一歩も動くな! 息もするな!!」 周囲の冷ややかな視線も何のその、山本・南雲・渡辺は一瞬で不審者街道まっしぐらな発言をぶちかます。 もちろんだが松下が涙を流しながら制止しようとムダに突っ込んだりもしたがそれは何の意味も無かったりした。 「ひいっ!! 何、この人達っ!?」 「ア、アリサちゃん…何か恐いよぉ」 「すずか、眼を合わせちゃダメよ……こういうのはいつ襲ってくるか分からないんだから」 二人の少女の名はアリサとすずかは山本達の異様な様に今まで感じた事のない恐怖を感じて震える。 その様子に常識人松下はさっそく助け舟を出す。 「ああ、もう! 恐がってるだろうが、これくらいにして帰るぞ!!」 「うっせええぞ松下あぁっ! 貧弱な坊やは黙ってな!!」 いつもの珍騒動を繰り広げる山本達、そんな時突如として周囲の空間が異様な沈黙を呈して人影か消える。 突然の事に驚く山本一行にアリサとすずか。 「ア、アリサちゃん…」 「な、何なのこれ?」 「これはまさか、結界?」 周囲の急変に思わず声を漏ら松下、そんな時彼らに聞き慣れた声がかけられた。 「そこの人…って! や、山本さん!?」 「おう、なのは。こんな所でどうした? また魔法少女の仕事か?」 「何なのは? この変態達と知り合いなの? っていうか何よ魔法少女って?」 「えっと…それは説明すると長くなるんだけど……ってもう追いつかれた!!」 なのはは後ろを振り返り、後方の敵を見据える。 そこには黒い羽根を持った銀髪紅眼の女性が宙を飛んでこちらに接近していた。 「なんだ? あのいかにも神話系なファンタジック美少女は!?」 「おお! 縁無しめがねが似合いそうですな!」 「っていうかフィギュア作らせろ!!」 お構い無しでいつもの変態発言をぶちかます山本一行、だがその女性は唐突に攻撃魔法を放ってきた。 「ブラッディダガー」 短い呪文と共に赤い魔力の剣が飛来する、その衝撃に爆音と煙が立ち込める。 だが煙が晴れて姿を現したのはボロボロの松下を掲げた山本の姿であった。 「“松下シールド”……役に立ったぜ松下、お前の死はムダにはしねえぜ」 「ま…まだ死んでない…」 あろう事か山本は近くにいた松下を盾にして攻撃を防いだのだ、正に悪魔の如き所業である。 「おい、なのはよアイツはなんだ?」 「えっと…闇の書っていう魔道書なんですけど、はやてちゃんって女の子と融合して…」 「はやて? 八神はやてって子か?」 「はい、そうです……知ってるんですか?」 なのはの質問に答える間もなく、山本は次の瞬間には闇の書の意思の下に跳躍した。 ちなみに20メートルくらいの高さがあったがこの男に常識は通用しない。 「こんのバカたれがあああ!!!」 「ぐわああ!」 そしてあろう事かぶん殴った、闇の書の意思を、グーパンチで。 恐らくは闇の書にこんな事をしたのは後にも先にもこの男だけであろう、常識で測れない妄想戦士それが山本一番星である。 「き、貴様…何をする…」 「“何をする”じゃねえええ!!!」 「はぐうう!!」 間髪入れずに2発目のグーパンチが唸りを上げて闇の書の意思に決まる、ちなみに瞬間的に張られえていた防御障壁は無理矢理ぶち抜いた。 殴られた闇の書の意思は鼻血までだして涙目になる、っていうか殴られたのなんて初めてだ。 「に、二度も殴ったな……主にも殴られたことないのに…」 「じゃかしいわいボケナス!! あの関西弁系、病弱属性な萌えっ娘を踏み台にして登場するなんてけしからん奴にはこれでもまだ足りねえっつうの!!!」 「訳の分からん事を!!」 さしもの闇の書も、この山本の理不尽っぷりに怒りを感じたのか表情を歪めて怒気を放つ。 そして山本の周囲に無数の雷撃の刃が出現する、それはフェイトの使う魔法フォトンランサーを蒐集したデータから応用したフォトンランサー・ジェノサイドシフトである。 即座に放たれた攻撃に爆炎が上がり、一寸の逃げ場もない攻撃を受けて山本が地に落ちた。 「山本さん!」 落下する山本になのはは悲鳴を上げる、だが彼女の心配は」杞憂に終わる。 「渡辺ブーメラン!!」 技名の雄叫びと共に渡辺がブーメランの如く旋回して山本をキャッチした、着地した山本は服こそ汚れていたが大事は無いようだった(あの攻撃で煤だけで済むところは異常だが)。 「大丈夫か?」 「ああ、大したことねえぜ」 渡辺の言葉にそう答えながら山本は上空の闇の書の意思を睨み付ける。 「おい闇の書とやら!!」 「お前もその名前で私を呼ぶのか?」 「それじゃあお前の名前はジョセフィーヌ! 設定年齢19歳の堕天使見習いでちょっぴりシャイな無表情系キャラだ!!」 「なっ……なんだその名前は!? 勝手に付けるな!!」 「俺の脳内設定だ! 文句あっか!?」 「あるに決まってるだろうが!」 「まあ、それは置いといてだ。早くはやてを解放しな、じゃないとかなり切ない目に合うぜ?」 「それは出来ない、私には主の願いを叶えなければならない…」 「暴れるのがはやての望みかよ? なら力ずくで止めさせてもらうぜ」 「……お前は何故戦うのだ? 魔道師でもないお前に勝ち目は無いぞ?」 憂いと悲しみに満ちた瞳で山本を見つめる闇の書の意思、覆しがたい戦力差だが山本は不敵な笑みを見せる。 「ふっ……俺を誰だと思ってやがる!! 萌えの申し子、山本一番星!! 萌えっ娘を守るためならば命なんぞいくらでも捨ててやるぜ!!!!」 こうして妄想戦士達と闇の書との壮絶な戦いが始まった。 続く。 前へ 目次へ 次へ
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高町なのは撃墜事件及び機動隊壊滅事件から三年の月日が流れ…… 事件後、管理局の信用はガタ落ちとなり、本局・地上本部は大衆の信用を得るべく、 独自のイベントを行っていった。 その結果、本局・地上本部は徐々に信用を取り戻しつつあったが、 比例するように、両者の溝はこの三年で更に深まっていた…… リリカルプロファイル 第七話 決意 此処はミッドチルダの首都クラナガンにあるマンション、そこで一人の男が調べ物をしていた。 男の名はティーダ・ランスター、首都航空隊の一等空尉である。 今調べているのは、彼が担当している変死事件について、である。 この事件は路地裏が主な現場で、被害者の肉体に血液が一切残っていないというのが特徴である。 管理局は魔法生物もしくは、カルト的宗教の類ではないかという見方をしていた。 …此処クラナガンでは事件が多発しており、先日も犯人が立てこもり、 その際に狙撃手が人質に誤射、被害を被るという事件が起きたばかりである。 結果的に犯人を逮捕したものの、犯行時の記憶が無く 魔法による記憶障害、もしくは操られていたという見方をとられていた。 話を戻し、体内の血液が抜かれるなど前代未聞の出来事で、過去の事件でもあり得ない内容に、民衆は不安を募らせていた。 「…こんな時、アリューゼとメルティーナが居たらな……」 かつてティーダの同期で親友でもあり、他の同期からは天才と評価されていた二人。 その後エリート集団である機動隊に入隊、同期からは期待の星として持ち上げられていた。 だが壊滅事件後二人は地上本部から身を引き、それぞれの道を歩いている。 「いや……何を言ってんだろうな」 機動隊が無くなってしまった今、ミッドチルダを護るのは、そして彼等の穴を補うのは自分達の役目、 …そう自分と仲間に約束した、弱気になっている隙などは無い。 自分の決意を改めて確認し、窘めるように引き続きモニターに目を通す。 今月に入って被害は四人、被害者は老若男女を問わず目撃者もいない為、捜査は難航していた。 ティーダは顎に手を当て、四人の被害者の現場写真をじっくり見つめていると、ある共通点を見つける。 それは野次馬の中に眼鏡の青年が映っており、場所・時間・服装は違えど青年は必ず現場に写り込んでいた。 「この青年は一体……」 ただの野次馬としては佇まいが他の者とは明らかに異質、その鋭い眼光は薄ら寒くすら感じる。 もしかして…この事件と何か関わりがあるのではないか… ティーダの勘がそう語り、今度見かけたら任意同行をかけてみるかと考えていると 自室の扉から光が漏れ出し、それに気づき振り向くと、そこには肩まで伸びたオレンジ色の髪の少女が顔を覗かせていた。 「兄さんまだ起きてたの?」 「お前こそ…まだ起きてたのか」 一言交わすと少女は部屋に入りモニターを見つめる。 「まだ仕事していたんだ」 「まぁな……そんな事よりどうしたんだ?」 「…………やな夢を見て」 少女の夢とは、ティーダが自分の前から居なくなり、闇の中を一人探し続けるという内容だった。 するとティーダは少女の頭に手を当て、優しく撫でる。 「心配するな俺は何処にも行かない、約束する」 「本当?」 「俺が今まで約束を破ったことあったか?」 少女は思い返していた、誕生日の時もクリスマスの時も兄は決して約束を破らなかった。 それらを思い出し少女は首を大きく左右に振り、少女の反応にティーダは大きく頷くと、 突然少女は左の小指を突き出した。 「じゃあ指切り!」 「分かったよ……」 ティーダは小さく頷くと左の小指を突き出し、少女の小指を絡め二人で歌い始める。 『ゆ~び切~りげんまん、う~そ付~いた~らは~りせ~んぼ~んの~ます、指切った!』 歌い終わると指を放し、少女は安心した様子で笑顔のまま部屋を出ていく。 「じゃあ、おやすみ。兄さん」 「あぁ、おやすみ。ティアナ」 ティアナは扉を閉め足音が遠のいで行く。それを確認したティーダは時計を確認、 既に11時を周っており、これ以上は仕事に差し支えると判断したティーダは パソコンの電源を消し、そのままベッドに寝転がり眠りについた… 一方此処はゆりかご内、スカリエッティの目の前には地図が映し出していた。 地図には赤い×点が表示されており、それに触れると今回の変死事件の現場が映し出される。 今回起きた事件の発端は、彼等が引き起こした事故が原因である。 彼等はクラナガンから離れた土地に建てた、研究施設で不死者の強化実験を行っていた。 実験体の名はライフスティーラーと呼ばれる不死者で、相手の血を吸い自分の力に変える特徴を持つ。 そして実験の内容とは、不死者のリンカーコアに魔力を注入させ強化を計るもの――なのだが、 魔法注入中に不死者が暴走、不死者は首都クラナガンに逃げ込んでしまい、この様な事件を起こしてしまったのだ。 スカリエッティは内心焦っていた。折角最高評議会との連絡を絶ち、 暗躍をしていたというのに、このような形で表に出てしまった事をにだ。 このまま不死者が暴れ続け、管理局にでも捕縛などされてしまったら、 計画は御破算、スカリエッティ達が破滅するのは免れない。 「う~ん……正直困ったね」 「ただいま戻りましたよ」 「やぁお帰りレザード……首尾はどうだい?」 「……少し気になったことがありましたよ」 現場に赴き詮索してみると、ある共通点を見つけたと。 それは犯行現場である路地裏の近くにはマンホールが幾つかあり、 今回逃げ出した不死者は、マンホールから下水道へと渡り、移動していると考えられる。 もしこの考えが正しければ、下水道の地図と犯行現場を記した地図を合わせる事により、 次の犯行現場を見つけられる可能性があるというのが、レザードの推論であった。 それを聞いたスカリエッティは、早速下水道の地図と照らし合わせ、次の犯行現場の予想を行い始めた。 次の日、ティーダは隊長から許可を得て、路地裏の片隅に潜んでいた。 夜ティーダが眠りに付こうした時、現場写真にマンホールが必ず映っていたことを思い出し、 直ぐ様下水道の地図を照らし合わせると見事に一致、次に行動範囲を予測し 犯人が姿を現す可能性が高い場所を特定、結果この路地裏を発見したのだった。 ……路地裏に来てから十時間が経過、未だ変化無く辺りは暗くなり始めていた。 すると奥のマンホール蓋が開き始め犯人が姿を出す。 その姿は、頭・肩・手足が白く体は紫で、口は細く鋭く伸び、後頭部の方は二つに割れ伸びていて、 手足は鋭く、両手においては地面に付きそうな程に長かった。 ティーダは目を疑った。目の前に現れたのは、魔法生物と言うには余りにも異形で、化け物と言った方が正しいからだ。 だが、今は目の前の現実を受け止めようと心に念じ、ティーダはデバイスを起動させた。 「動くな!!」 銃型インテリジェントデバイスD・Eを突きつけ警告を促すティーダ。 だが相手は言葉が通じないのか、それとも恐怖が無いのか躊躇することなくティーダに向かって襲いかかってきた。 「問答無用か…D・E!カートリッジロード!!」 ティーダが叫ぶと機械音と共に薬莢が一つ排出され 足音に円型の魔法陣が現れ、更に彼を中心にオレンジの魔力弾が四つ現れる。 「クロスファイアシュート!!」 放たれた四つの魔力弾は的確に化け物の両肩と腿にヒットし、化け物を吹き飛ばす。 クロスファイア、ティーダが得意とする中距離誘導型射撃魔法で、 複数の誘導弾による空間制圧を目的としており、様々なバリエーションを生み出せるのが強みである。 ティーダは化け物を牽制するべく放ったが、余り効果が無いのかゆっくり起きあがるや高々と飛び跳ね、 左手をビルに突き刺し両足でビルを足場にして蹴り、右手を突き出し向かってくる。 だが、化け物の突きが当たるギリギリの瞬間を狙い、バックステップで回避するティーダ、 そしてティーダが先程まで立っていた場所には、地面を突き刺し動けないでいる化け物の姿があった。 「D・Eダブルモード」 そう言うと、人差し指をトリガーに引っ掛け回転、すると左手に同様の銃が現れる。 ダブルモード、銃を二丁に増やす事により、数多くの魔力弾を撃ち込むことが可能となる。 ただシングルモードとは異なり、精密射撃などの射撃には不向きな形態である。 しかしティーダは短期決戦に持ち込もうと敢えてこのモードを使用、 まずは右手に持った銃で三発、化け物に撃ち込み体を吹き飛ばすと、 続けて左の銃から薬莢が一つ飛び出し、クロスファイアを四発生成、 上下左右、弧を描くように相手を逃さまいと追い撃ちをかけ、見事に直撃した。 「流石に…此処まで撃てば気絶する―――」 だが化け物はやはり、ゆっくりと起き上がりティーダを睨み付ける。 このタフさ…補助魔法でも掛かって居るのだろうか? だとすれば補助魔法を解除する効果を持つストラグルバインドで縛り上げてみるか… そうティーダは考えた矢先、上空から五本の光の槍が化け物に突き刺さり、 化け物は奇声を上げながら光の粒子となって消え去った。 「やれやれ…やっと姿を見せたかった思ったら…まさか目撃者が居たとは……」 上空から呆れた様子で一人の男が降りてくる。その男はティーダが怪しがっていた眼鏡の青年だった。 やはりこの事件と関わりがある…そう確信した瞬間、ティーダは銃口を青年に向けていた。 「お前は何者だ」 「…今から死ぬ者に、名乗る名などありませんよ」 そう告げた瞬間、右手を向けファイアランスを放ち、ティーダに向かって二つの炎の矢が襲い掛かるが、 冷静に右手に持つ銃からの魔力弾で撃墜、続いて左手に持つ銃で追撃するが、青年は上空へと逃げ、 逃さまいと両銃から薬莢が一つずつ排出、八発のクロスファイアが浮かび上がり青年を襲う。 青年は誘導弾から逃れる為、路地裏を縦横無尽に飛び回り、三発を障害物や壁などに当て逃れたが、 残りの五発はしつこく追いかけて来ており、青年はうんざりした様子を見せながら振り向き右手を向ける。 「プリズミックミサイル」 青年の右手から五つの光弾が現れ、残りのクロスファイアを撃墜した。 プリズミックミサイル、光属性を持つ誘導型の魔力変換魔法であるが、 この魔法の恐ろしい所は高い誘導性もさることながら、複数の状態異常を引き起こす点である。 猛毒、麻痺、凍結、石化に加え魔法の発現を阻害する沈黙も含まれ 異質で有りながらも、極めて強力な威力を誇る魔法であった。 ただ欠点といえば魔力使用量が多いのと、発動まで時間が掛かる所なのだが、 青年にとっては大した欠点でもないようで、それを見せつけるようにティーダに目を向け、指を鳴らす。 「バーンストーム」 次の瞬間ティーダの足元が爆発、炎に包まれ暫くして消えると、その場所にティーダの姿は無かった。 一撃で吹っ飛んだか…そう青年は思い、場を立ち去ろうとした瞬間、 幻術の一つフェイク・シルエットを使用して上空へと退避していたティーダが、 両銃を胸元でクロスさせて、青年の頭上に狙いを定め降りてくる。 「D・E!モードII!!」 次に両銃口から魔力の刃が伸び、刃が十字を描くと、落下の勢いそのままに切りかかる。 ダガーモードと呼ばれるバリア・フィールド貫通能力を持つ魔力の刃を形成する、いわゆる銃剣である。 「ほう…幻術による不意打ちとはまた……」 「よく言う…簡単に防いだ癖に!」 青年はシールド型のガードレインフォースで刃を防ぎ難を逃れ、両者の間に魔力素が火花のように散る中、 ダガーモードのバリア・フィールド貫通能力でも貫けない青年のシールドの強固さに、ティーダは手札を切る。 「D・E!カートリッジロード!!」 両銃から薬莢が一つずつ飛び出し、魔力刃を強化、その甲斐あってか青年のシールドは砕け、 間髪入れずにダガーモードを解除、地面に着地するや青年に銃口を向け魔力弾を次々に撃ち鳴らし、 直撃を受けた青年は、なす統べなく吹き飛ぶが、一回転して地面へと着地、 一方ティーダは使い切ったカートリッジバレルを捨て、新しい物に手早く交換すると 各銃一つずつカートリッジをロード、距離を取り青年に銃口を向け ダブルモードのD・Eの銃口の周囲にクロスファイアを発動、続いて銃口を軸にして回転させる。 「クロスファイア…スパイラルシュート!!」 ティーダの叫びを合図に回転が加わった右のクロスファイアが、螺旋を描いて青年に襲い掛かる。 これがクロスファイアのバリエーションの一つスパイラルシュートで、 回転を加える事で貫通力を高め、更に螺旋を描きながらの集中砲火により、回避を困難にさせる効果を持っていた。 だが青年は冷静な判断でシールドを再度張り、クロスファイアを受け止め攻撃を防ぐが、 ティーダは青年の行動を既に読んでおり、追い討ちにと左のクロスファイアを撃ち放ち、青年を足止め、 僅かながらに青年の足が揺らぎ、勝機を見たティーダは左の銃を通常に構え、右の銃を水平に構えるや 薬莢が二つずつ計四つ排出、そして銃口の前に円型の魔法陣が現れるとティーダは切り札の名を叫んだ。 「ファントムブレイザー!!!」 次の瞬間オレンジ色の直射砲が青年に襲いかかり、青年はシールドを広げたままこの攻撃に耐えて続けていた。 するとティーダはカートリッジをロードし威力を高め、 強力な魔力の奔流となったファントムブレイザーは、青年をシールドごと呑み込んでいった。 本来のファントムブレイザーは魔力を高密度に圧縮し、細いレーザー状にして放つ直射型の遠距離狙撃砲なのだが、 説明の通り狙撃での場合であれば何も問題無いのだが、今回は狙撃では無い為、 魔力の圧縮を行わず純粋な放出のみ、質より量を重点に置いた攻撃であった。 とはいえ本来とは異なる方法に加え、魔力の放出を苦手とするティーダにとっては大きな負担で、膝を付き肩で息をする程疲弊していた。 「はぁ……はぁ………やっ…たか……」 足下には空のカートリッジバレルが排出されあり、ティーダは呼吸を整え胸を張るように立ち上がる。 すると突然、赤い鎖のバインドと青い鎖のバインドがティーダを縛り付け、 彼の目の前に五亡星が浮かび上がるや、青年が姿を現す。 「馬鹿な…無傷だと!!」 「…あのままマトモに受けると思っていたのか?予め移送方陣の準備をしておいたのだよ」 強化されたファントムブレイザーが直撃する瞬間、移送方陣を発動させ上空へと回避 その後二種類のバインドで拘束したのだと青年は話す。 だがこのまま終わるつもりが無いティーダは、バインドを解こうと抗うとしたが、 不思議と思うように力が入らず、戸惑いの色を見せていた。 「くっ!何故力が…入らない!?」 「無駄な事を、そのバインドは特別製ですから」 赤いバインドをレデュースパワー、青いバインドをレデュースガードと呼び、 レデュースパワーは力を押さえる効果があり、レデュースガードは防御力を下げる効果がある。 「どうりで力が入らない訳だ…だがこのまま――」 「諦めの悪い人ですね…ならば」 青年は闇を呼び出し、刃に変えるやティーダの肉体に突き刺す。 右肩・両腕・左脇腹と続き、傷口から夥しい量の血が流れ、 更に刃は頬を、胸元を、背中を切り裂き、全身に走る激痛は非殺傷設定を解除されている証拠。 だがティーダは苦悶の表情を見せるも一切叫び声を上げず、 耐え抜くその瞳は未だ輝き強い“生きる”意志を宿していた。 「フッ……まぁ認めてあげましょう…故人は褒めて二度殺すのがスジらしいですから」 青年は賞賛と皮肉の言葉を浴びせ、不敵な笑みを浮かべながら右手をティーダに向け指を鳴らす。 (ティアナとの約束……破っちまったな…………) 爆発と閃光に巻き込まれる中、ティーダはティアナとの約束を思い返したまま、永遠の眠りについた…… ……その後ティーダとの連絡が途絶えた地上本部は、捜索の為最後に連絡が取れた現場へ急行、 現場には無惨な姿で倒れているティーダを発見。 遺体の損傷は激しく、両足は爆発物で吹き飛ばされた形跡があり、体全体には激しい裂傷が見られていた。 管理局は複数の魔導師による犯行と考え捜査、 暫くしてカルト集団ゴーラ教の信者が自首し犯行を自供、事件は一応に解決した…… 日は変わり此処は葬儀場、その中ではティーダ・ランスターの告別式がしめやかに行われていた。 そして花を手向ける参列者の中に喪服姿のアリューゼの姿があった。 遺影を見つめ深く祈り、花を手向け親族に目を向けると一人の少女がぽつんと座り、 泣きじゃくったのだろう、少女の目は真っ赤に充血し泣き跡が印象的だった。 アリューゼは親族である少女に声をかけ、同じ目線までしゃがむ。 「確か名は…ティアナだったな」 「…兄さんのお友達ですか?」 「まぁな……」 するとティアナは深く頭を下げ感謝の意を述べる。 アリューゼは照れ臭そうに頬を指で掻いていたその時、 後ろの方で信じられない言葉がアリューゼの耳に入る。 「単独行動による殉職…しかも犯人は自首したと聞く…」 「犬死にだな…情けない事だ…」 「そんな事はどうでもいい…むしろこれからの事だ」 「そうだな…折角、地上本部の信用を取り戻し始めた矢先だというのに」 「本局は最近、実績を積み上げ始めているらしいしな」 「それに比べて…全く役立たずめが……」 辺りに飛び交う非難の声は、ティアナの耳に入るほどの大きさで話していた。 死者を弔う場での暴言、アリューゼの怒りに火がつくのは明らかで、立ち上がろうとしたところ、 ティアナはアリューゼの手を握り首を左右に振る。 「何故だ…奴らはティーダの事を―――」 「それでもお願いします。今はただ…兄さんを静かに送らせて下さい……」 その健気な言葉に何も返せなかったアリューゼであった。 ――告別式も終わりこの場にはアリューゼとティアナの二人しか残っていなく、 ティアナはジッとティーダの遺影を見つめていた。 そして決心したかのように堅く拳を絞める。 「私…兄さんの夢を引き継ぐ!!」 兄さんの夢それは執務官になる事、そしてそれを兄さんの技術で私が叶える、それが自分の夢であり手向けと考えた。 幼くても芯をしっかり持ったティアナの瞳には迷いが無く、むしろ決意の色を宿していた。 アリューゼは三年前の自分と同じ決意の色を宿した瞳を見て、ティアナの頭に手を当て優しく撫でる。 「………そうか、強くなれよティアナ」 その言葉に大きく頷くティアナであった―― 前へ 目次へ 次へ